本研究では糖尿病合併患者におけるシスプラチン(CDDP)起因性腎障害(CIN)の出現および抗酸化物質によるCIN軽減に関して検討を進めている。 臨床研究では糖尿病患者群におけるCIN発症のリスク因子の解析を目的とし、多施設共同研究を実施した。呼吸器がんに対する化学療法としてCDDP (60 mg/m2以上)を含むレジメンを8 mEqのマグネシウムを含むショートハイドレーション法で投与された糖尿病患者140名を対象とし、Common Terminology Criteria for Adverse Events version 5.0におけるグレード2以上あるいはベースラインからの0.3 mg/dL以上の血清クレアチニン上昇の出現に寄与するリスク因子をロジスティック回帰分析にて評価した。 その結果、CINは22.1%の患者で確認され、その約80%が投与開始から2サイクル以内に症状を発症した。多変量解析の結果、糖尿病患者においては女性がCINに影響を与える唯一の因子として抽出されたが(オッズ比2.87、95%信頼区間1.08-7.67、P=0.04)、全患者群でのハイリスク因子として知られる非ステロイド性消炎鎮痛薬の併用は糖尿病患者ではその出現に影響を与えなかった。 基礎研究ではラット正常腎上皮細胞株NRK-52E細胞を用い、10μMのCDDP添加に伴う細胞生存率の低下に抗酸化物質(アロプリノール200μM、アトルバスタチン0.4μM、ロスバスタチン0.2μM、カモスタット4μM、レバミピド12μM、バルサルタン30μM、トコフェロール35μM)およびイメグリミン1 mMが与える影響を検討した。その結果、バルサルタンの併用に伴う細胞生存の有意な低下、細胞生存低下に対するイメグリミンによる有意な抑制が確認された。今後は両薬剤の併用がCINに与える影響について検討を進める予定である。
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