研究実績の概要 |
シトクロムP450 (P450, CYP)は酸化反応を触媒する主要な薬物代謝酵素であり、様々な化学物質に対する生体防御に寄与する一方で、有害な活性酸素種を放出するという性質を併せ持つ。体内のP450の量は特定の化学物質に曝露することで著しく上昇し、慢性的な曝露は肝臓がんをはじめとする肝障害を引き起こすことが知られているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。本研究では、「P450による肝障害の惹起には、食事に含まれる糖化産物に対する感受性の向上が関与する」という作業仮説の下で一連の検討を行った。 P450の発現量が上昇したモデルとして、アフリカミドリザルの腎由来培養細胞であるCOS-1細胞に主要な分子種であるCYP3A4遺伝子を導入し、薬剤耐性遺伝子の発現を指標としたスクリーニングののち、安定的に発現するものを単離することに成功した。糖化産物は細胞内において炎症シグナルを亢進することが知られている。今後はレポーター遺伝子アッセイを中心に、作製したCYP3A4安定発現細胞と親細胞との間で、代表的な炎症シグナルであるNF-kB経路の活性化を比較する予定である。 上記のような研究と併せて、糖化産物の毒性そのものに関する検討も行った。ジヒドロピラジン類は我々のグループが着目してきた糖化産物であり、中でも3-hydro-2,2,5,6-tetramethylpyrazine (DHP-3)は強い細胞毒性を示すことがわかっている。本研究ではDHP-3の毒性発現機構を明らかにするため、研究知見が豊富な糖化産物であるカルボキシメチルリジンやアクリルアミドとの比較を行った。その結果、DHP-3は細胞内における活性酸素種の放出量が他の2つよりも顕著に多く、これが高い細胞障害につながることを報告した (Miyauchi Y. et al., J. Toxicol. Sci., 2023)。
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