研究課題/領域番号 |
22K15347
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
秋元 勇人 日本大学, 医学部, 助教 (80847658)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬剤性肝障害 / 薬物間相互作用 / 解釈可能な機械学習 / 人工知能 / データマイニング / 薬剤疫学 |
研究実績の概要 |
薬物の代表的な副作用の1つである薬剤性肝障害(DILI)のリスクは肝毒性を有する2種類以上の薬物の併用により6倍以上増加することが報告されている。本研究の目的は大規模な電子カルテ情報を利用してこのDILIのリスクを相乗的に増加させる特定の薬物の組み合わせを探索・検出することである。まず、日本大学医学部臨床データベース(NUSM's CDW)から血清アラニンアミノ基転移酵素(ALT)が90日以内に基準値[4.0-44.0IU/L]の3倍を超えて上昇した患者と正常範囲内であった患者を抽出し、同患者らがその期間中にどのような薬物を使用していたかを要因とした症例対照研究を実施した。統計解析手法として、伝統的に利用されている多重ロジスティック回帰(MLR)モデル、AI基盤技術であるロジスティックLASSO回帰モデルやeXtreme Gradient Boosting (XGBoost) decision tree モデルの3つを利用した。イベント判別の指標である受信者動作特性曲線下面積(AUROC)やPrecision-recall曲線下面積(AUPR)を算出・比較することでどのモデルが良好にDILIを予測できていたかを調査したところ、XGBoostモデルやLASSO回帰モデルはMLRよりも優れたパフォーマンスを示した。この2つのモデルにおいてどの薬物の組み合わせがDILIリスクを増加させるか評価したところ、ジクロフェナクとファモチジンの併用下ではこれら薬物の単独のリスクと比較し、DILIリスクが相乗的に高いことが示唆された。本研究結果は原著論文1本、学会発表1回を通じて成果発表済みである。 学術論文:Akimoto, H., et al. Frontiers in Pharmacology. 2022. 学会発表:第143回日本薬学会年会. 札幌. 演題番号 26P2-pm1-130.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はデータソースとPCがあれば実行可能であり、簡単なデータ抽出のみであれば研究費を執行せずとも実施できることから研究計画として記載した内容のほぼすべては2022年度中に計画通り終了している。したがって進捗区分では[(2) おおむね順調に進行している。]を選択しているものの、研究それ自体はほぼ終了している状況である。 [研究実績の概要]欄にも記載した通り、本研究はAI基盤技術の1つである機械学習を用いて薬剤性肝障害のリスクを大きく上昇されるような特定の2種類の薬物を検出するデータマイニング研究であり、本研究により得られた結果は査読済み学術論文1本、国内における学会発表1回として成果発表済みである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の進捗状況は順調に進行しており、薬物性肝障害(DILI)のリスクを相乗的に高める薬物の組み合わせとして、ジクロフェナクとファモチジンの組み合わせの潜在的なリスクを検出することができた。しかしながら、本研究において明らかとなったことは、「これら2種の薬物を併用している患者ではDILIリスクが高い」といえることまでであり、これらの組み合わせでなぜそのリスクが高まるのかといった情報は得られていない。DILIには主として患者の免疫反応が関与する患者特異的なDILI (idiosyncratic DILI)及び薬物の用量依存的に発生するDILI (intrinsic DILI)の2種類があり、上述したように本研究結果であるジクロフェナクとファモチジンの併用はこの2種類のDILIのどちらに属して発症するかは不明である。したがって、もし今後1年間で研究エフォートが十分に確保することが可能であれば、DILI発症までの期間中にこの2種類の薬物がどれほど使用されたか(例えば、期間中における1日量の加重平均値や累積投与量)のような用量依存関係がDILI発症に関与するかを調べることを計画している。もし、2種薬物の組み合わせに用量依存関係がなければ、この2種薬物間のDILIリスク上昇の理由としてはidiosyncratic DILIの可能性が疑われ、そうでなけければintrinsic DILIが疑われる。この2種類の薬分間相互作用がidiosyncraticであるか、あるいはintrinsicであるかによって薬物処方時に注意すべき点が異なることから、用量依存関係を調査することは重要であると推察される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はデータ解析に必要なデータソース(患者の医療情報)および解析用PCの2点があれば概ね実行可能である。科研費が採択されるまでの期間及び採択後に科研費が執行できるようになるまでの期間中に本研究を進めることが可能であったことから、当初予定していたPCの各種部品を購入する必要性が低かったことが次年度使用額が生じた主な理由である。しかしながら、研究を前倒しで進めたことによって初年度中に学術論文1本および学会発表1回を成果として挙げることが可能となり、これらの成果発表にその研究費を活用することが可能となった。また今後の研究の推進方策に記載したように、本研究結果では薬剤性肝障害の発症メカニズムに関するエビデンスが構築できておらず、これを実行するためには統計解析時に薬物の用法用量や累積投与量等の情報を追加する必要があり、これを実行するためには強力なマシンパワーを要する。したがって、次年度では使用しているPCのパフォーマンス向上のために研究費の残額を使用する予定である。パフォーマンス向上に直接寄与するPCパーツはCPU, GPU, メモリの3つであり、これらを調達する予定である。
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