申請者は特定の腸内細菌がパーキンソン病(PD)の症状に関与すると仮説を立てている。本課題の目的の1つは発症および進行に関わる腸内細菌を特定することである。2つ目はPDにおける短鎖脂肪酸の役割を明らかにすることである。1つ目の目的に対してPDに多い菌株を、無菌化およびSPFの野生型マウスに腸内細菌移植実験(ノトバイオート実験)を行った。PD最初期症状に便秘が認められるため、排泄能解析および病理学的解析を行った。1. 代謝ケージを用いてマウス排泄能を評価したところ、便秘症状を観察した。2. 新鮮便を採取して病理標本を作成したところ、便中ムチンの低下を示唆する結果を得た。3. 生化学的定量評価にて便中ムチン量は低下した。以上の結果から、パーキンソン病に多い 菌株はムチン貪食を通じて便秘を誘発することが示唆された。なお、患者便中ムチン量も低下する結果も得た。2つ目の目的に対して腸内細菌代謝産物受容体GPR41knockout strainとPDモデルマウスのαSynuclein overexpression (ASO) の交雑マウスを使って行動試験を行ったところ、交雑群がいずれも機能低下を示した。脳のELISAを行ったところ、GPR41 KOマウスにおいては脳のGLP-1分泌が認められなかった。黒質のミクログリアの形態変化がGPR41KOマウスにおいて認められた。そしてGLP-1agonist投与群 は形態変化を認めなかった。これらの結果からGPR41KOによって脳GLP-1分泌が損なわれ、行動障害を引き起こす可能性が示唆された。以上のモデルマウス実験により、PD特有の腸内細菌叢および代謝産物状態によって症状が影響を受けることがわかった。
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