研究実績の概要 |
肝炎と鉄代謝異常の関連性は古くから提唱されており、一般に肝臓における鉄の蓄積は肝炎の病態を悪化させると考えられている。一方、鉄は生体内において2価と3価の異なる形態をとり、同じ鉄過剰でも2価鉄過剰と3価鉄過剰では生命機能に及ぼす影響が全く異なることが知られている。しかしながら、2価/3価の鉄動態と肝炎との関係は十分に明らかになっていない。本研究の目的は、鉄動態が肝炎における修復応答を調節するメカニズムの解明である。 肝細胞に2価鉄を蓄積するマウス(FBXL5欠損)ならびに3価鉄を蓄積するマウス(FBXL5, IRP2二重欠損)において肝炎を誘導すると、前者では肝線維化が抑制されたが、後者では野生型と同程度であったことから、2価鉄には肝炎における修復応答を促進する役割があることが明らかになった。これは2種類の肝炎誘導モデルにおいて共通して認められた。FBXL5欠損マウスでは活性化線維芽細胞の数や、コラーゲン、コラーゲンの架橋に関わる酵素の発現量は野生型マウスと同程度であったことから、線維芽細胞によるコラーゲンの産生以外の要因により、線維化の抑制に至ると考えられた。肝炎を誘導したFBXL5欠損マウスでは、Ki67陽性増殖性細胞数の増加が認められたことから、肝障害後の肝細胞の分裂に重要であることが知られるHippoシグナルのエフェクター分子YAP及びTAZを欠損するマウスとFBXL5欠損マウスを交配した。FBXL5, YAP, TAZ三重欠損マウスは得ることができなかったが、FBXL5, YAP二重欠損マウス、及び、FBXL5, TAZ二重欠損マウスは繁殖可能であった。FBXL5, YAP二重欠損マウスはビリルビン値の著しい増加と著しい肝線維化を認めたことから、2価鉄蓄積に伴う肝細胞の分裂活性の亢進が修復応答の誘導に関与していると考えられた。
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