研究課題
本研究はパーキンソン病原因遺伝子産物Parkinが誘導する細胞死の実態を明らかにすることを目的としている。パーキンソン病患者脳ではミトコンドリア呼吸鎖複合体の障害が観察されている。そこで、本研究では、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤であるRotenoneを処理し実験を行った。Parkin分解酵素であるMITOLを欠損させた細胞にミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤であるRotenoneを処理すると、野生型細胞と比較し、顕著に細胞死が誘導されることが明らかとなった。また、Rotenone処理時にParkinは高度にニトロシル化を受け凝集し、MITOLはニトロシル化を受けた不溶性のParkinを選択的にユビキチン化し分解することを明らかとした。以前、MITOLは脱共役剤であるCCCP処理により、K48型のユビキチン鎖をParkinに付加し分解することを報告したが、Rotenone処理の際にはK63型のユビキチン鎖をParkinに付加し、分解していることを明らかにした。これらのユビキチン化付加選別機構をより詳細に解析するため、MITOL結合候補因子の一つOTUD4に着目し解析を行った。OTUD4は脱ユビキチン酵素であり、K48型、K63型ユビキチン鎖を選択的に切断することができる。解析の結果、CCCP処理の際、OTUD4はリン酸化されK63ユビキチン鎖を切断し、Rotenone処理の際にはリン酸化されず、K48型ユビキチン鎖を切断していることが明らかとなった。これらのことから、特にニトロシル化を受けたParkinの毒性が高いこと、さらにその抑制系としてMITOLがニトロシル化ParkinにK63型のユビキチン鎖を付加し分解誘導していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Parkinが誘導する細胞死はニトロシル化された不溶性Parkinによって誘導されることを明らかにした。また、それらの抑制系としてMITOLが不溶性ニトロシル化Parkinを特殊な分解機構を用いて分解し、毒性を抑えていることを明らかにした。よって、目的としていた、Parkin誘導性細胞死の実態の一部を明らかにできたため、順調に研究が進展していると考える。
細胞を用いた解析から詳細なParkin誘導性の細胞死の実態が明らかになってきた。一方、マウスを用いた解析、特にマウスの作出に時間がかかり、着手できていない。そのため、今後は、MITOLがパーキンソン病の病変部位において不溶性ニトロシル化Parkinの除去を行なっているのか否かを検討する。具体的には、Cre-loxPシステムを用いて黒質・線条体特異的MITOL欠損マウスを作出しMPTPの投与にてパーキンソン病を誘導し、野生型マウスと比較して、不溶化したニトロシル化Parkinが病変部位に蓄積しているか、病態の悪化がみられるかなどを検討する。
当初予定していた人件費・謝金及び旅費を使用しなかったこと、物品費の使用予定より少なかったため次年度使用額が生じた。次年度は主に物品費として試薬などの消耗品に使用する計画をしている。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
iScience
巻: 25 ページ: 104582~104582
10.1016/j.isci.2022.104582
The Journal of Biochemistry
巻: 171 ページ: 529~541
10.1093/jb/mvab153