研究課題/領域番号 |
22K15408
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
黒木 秀作 大分大学, 医学部, 技術専門職員 (50905213)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ANXA8 / 膵癌 / MAPK阻害薬 |
研究実績の概要 |
本年度は、ANXA8の発現に伴う細胞形質への影響の検証と、マウス皮下移植モデルにおけるANXA8標的療法の有効性の検証に取り組んだ。これまでの研究により、MAPK阻害薬に抵抗性の膵癌細胞株では、ANXA8の恒常的発現あるいはMAPK阻害薬処理による発現誘導が認められており、siRNAを用いてANXA8の発現を抑制すると、MAPK阻害薬に対する感受性が高まることを明らかにしている。そこで、まずはCRISPR/Cas9システムを用いてAMXA8ノックアウト細胞株を2株(PK-59KO、PK-1KO)樹立し、増殖能やMAPK阻害薬への感受性を調べた。元のANXA8のタンパク発現レベルがやや高いPK-1では、ANXA8のノックアウトによって、細胞増殖能が低下した。一方、元のANXA8のタンパク発現レベルがPK-1よりも低いPK-59では、ANXA8をノックアウトしても増殖能に大きな変化はみられなかった。また、PK-59細胞株では、ANXA8のノックアウトによってMAPK阻害薬処理後のアポトーシス能が亢進し、感受性が高まることを見出した。次に、樹立したPK-59KO株とその親株を用いてマウスに皮下移植し、腫瘍を形成した時点でMAPK阻害薬による治療実験を施行した。治療開始から3~4日毎に腫瘍の大きさを計測し、5週間後に腫瘍を摘出し重量を計測した。その結果、MAPK阻害薬治療群では未治療群と比較して顕著に腫瘍の増殖が抑制され、さらにANXA8をノックアウトしたPK-59KO株では、親株と比較して増殖抑制効果が高まる傾向が認められた。以上のことから、ANXA8は膵癌の治療標的分子として有効であることが示唆された。今後は、ANXA8の発現によって変動するシグナル経路の同定に進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実施計画は、①膵癌組織、細胞株におけるANXA8発現レベルの解析と、②ANXA8の発現変動に伴う細胞形質への影響の検証であり、具体的な実施項目は以下のとおりである。 1. ヒト膵癌組織におけるANXA8の発現レベルを免疫組織化学で確認する。 2. 膵癌細胞株のANXA8発現レベルとMAPK阻害薬感受性との関連性を解析する。 3. ANXA8ノックアウト細胞株を樹立し、増殖能や生存能などに与える影響を調べる。 このうち1については、現在35症例が完了しており、追加の症例を選定中である。2については、膵癌細胞株13株について感受性試験を終えており、mRNAとタンパクの発現レベルの違いを検証している。3については、ノックアウト細胞株を2株樹立し、ANXA8のノックアウトによって増殖能やMAPK阻害薬処理後のアポトーシス能に差が認められることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果から、ANXA8が細胞増殖能やアポトーシス能に関与していることが示唆される結果が得られ、MAPK阻害薬抵抗性に関わる分子として、新たな治療標的になり得ることが示された。今後は、ANXA8が関与しているシグナル経路の同定を試み、新たな治療標的としての可能性とその根拠を明確にしていく。 1.網羅的遺伝子発現解析およびパスウェイ解析を用いて、 ANXA8のノックアウトによって変動している分子やシグナル経路を同定し、MAPK阻害薬抵抗性との関連性を明らかにする。 2. ANXA8の発現を抑制する阻害剤を探索し、新規治療薬としての可能性やMAPK阻害薬との併用療法の可能性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、研究資材および消耗品等の購入に遅延が生じたことや、研究代表者や研究協力者の感染等により就業禁止期間が生じたことから、研究遂行の準備に時間を要したため、当初計画していた予算よりも少ない支出となった。 今年度の未使用額については、ANXA8のノックアウトによって変動する分子やシグナル経路を同定するための網羅的遺伝子発現解析や、マウス移植モデルによるANXA8を標的とした治療実験に使用する計画である。
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