研究実績の概要 |
EGFR変異を持つ肺腺癌(以下、EGFR肺腺癌)には、急速に進行し、また極めて予後不良な一群が存在する。研究代表者は、これまでに、EGFR肺腺癌の組織学的予後因子が微小乳頭状亜型であることを突き止め、また、微小乳頭状亜型成分をマイクロダイセクション法を用いて、他の亜型と分けて採取し、網羅的分子解析を行うことで、微小乳頭状亜型に特有の分子異状を同定することに成功している。しかし、一方で、今までの実験では、カバーガラスのない顕微鏡観察下の分取で判別精度が低い、分解能が低く亜型成分を網羅的に分取するのが難しい、長時間の作業でRNAが劣化する、などの問題点がある。そこで、本課題では問題点を解決すべく空間的発現解析法(VisiumTM: 組織切片上で約55μm格子毎の位置情報を保持しながら網羅的発現解析を行う革新的技術)を取り入れ、同一腫瘍内の多様な亜型成分の遺伝子発現特性を比較し、置換型から微小乳頭状亜型に至る多段階的な進展過程の分子基盤を追求する。 昨年度、空間的発現解析(VisiumTM)により、①低悪性度の肺胞置換型亜型成分と、②低乳頭状の増殖を示すpattern Lepidic with low papillary structure (LELP)、③高悪性度の微小乳頭状亜型成分 の遺伝子発現量を比較し、①から②で1個(遺伝子A), ②から③で2個の発現上昇している遺伝子(遺伝子B, C)を特定した。当該年度は症例数を拡張した免疫織化学的検討を行い、発現量を半定量化するために微小乳頭状成分とLELP成分、非微小乳頭状成分(肺胞置換型成分, 腺房状成分, 乳頭状成分, 充実型成分)それぞれにおいてスコアリングを行った。その結果、200個以上の肺癌においてLELP成分には遺伝子A, B, Cが、微小乳頭状成分では遺伝子B, Cがそれぞれ強発現していることを確認した。
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