研究課題
乳癌は、ER、PgR、HER2のバイオマーカーにより臨床的に分類され、術前薬物療法の標準的レジメンが決まっているが、著効例と無効例が認められ、さらにバイオマーカーが全て陰性となるtriple negative乳癌は、術前薬物療法の完全奏効率が低いことから、さらなる個別化医療に繋がる新たなバイオマーカーの開発が望まれている。REV7はDNA損傷耐性機構に大きく関与する蛋白であり、過去の研究にて、REV7の発現は悪性腫瘍の予後と抗癌剤感受性に大きく関与していることが明らかになっている。本研究の目的は、乳癌バイオマーカーとしてのREV7の有用性を明らかにすることである。令和4年度は、術前薬物療法を行わずに手術された乳癌切除検体の病理組織標本を用いて、抗REV7抗体を用いた免疫組織化学染色、RNAプローブを用いたin situ hybridizationにより、乳癌組織におけるREV7の発現を半定量的に検討し、REV7発現と臨床病理学的事項、組織型、病期、予後との関連を統計学的に解析した。また、既存の乳癌のバイオマーカーの発現との関連を解析した。まず、REV7発現と臨床病理学的事項、組織型、病期、予後との関連については、これまでに統計解析を行った症例の解析結果にて、有意な関連は認められていない。しかし、triple negativeの乳癌と診断された症例と、triple negative以外の乳癌の症例における乳癌組織のREV7の発現を解析した結果、triple negativeの乳癌組織は、triple negative以外の乳癌組織と比較して有意にREV7の高発現を認めた。この結果から、triple negativeの乳癌組織はtriple negative以外の乳癌組織と比較して、DNA損傷により引き起こされる細胞死から癌細胞を守る能力が強いと考察される。
3: やや遅れている
本研究においては、研究方法として、1)臨床検体を用いた乳癌におけるREV7発現の意義の解析、2)乳癌培養細胞株を用いたREV7発現の細胞生物学的意義の解析、3)実験動物(マウス)を用いたREV7発現の腫瘍生物学的意義の解析、以上の3項目を予定している。研究計画における研究の流れと実施スケジュールにおいて、1)における、1.乳癌手術検体を用いたREV7発現と臨床病理学的因子・予後との関連の検討、については研究実績の概要にて記載した通りであり、2.乳癌生検検体を用いた術前薬物療法の有効性とREV7発現の関連の検討、についても進めている。しかし、2)についての実施に至っておらず、研究の進捗状況としてはやや遅れがある。原因として、1)において用いた臨床検体の症例数が多いため、免疫組織化学染色の施行、臨床病理学的データの収集、結果の解析に時間がかかったことが挙げられる。
現在までの進捗状況にて記載した通り、研究の進捗状況としてはやや遅れがあるが、2)乳癌培養細胞株を用いたREV7発現の細胞生物学的意義の解析、3)実験動物(マウス)を用いたREV7発現の腫瘍生物学的意義の解析、の2項目については、1)の遅れの原因である症例数の多さによる遅延は存在しないため、これ以上の進捗状況の遅れが生じないよう留意したい。今後の研究については、2)においては、REV7ノックアウト細胞の樹立に利用するCRISPR/Cas9システムは当実験室内で実験系が確立しており、また、本研究にて使用するノックアウトベクターは構築済みで、他の研究でノックアウト細胞が樹立可能であることも確認している。3)においては、マウスの飼育は北里大学医学部遺伝子高次機能解析センターにて行う。担癌マウスの経験者は申請者の研究室内にいるため、実験方法については指導を受ける。
本研究においては、現在までの進捗状況にて記載した通り、研究の進捗状況としてはやや遅れがあり、研究計画の2)乳癌培養細胞株を用いたREV7発現の細胞生物学的意義の解析についての実施に至っていないため、2)について必要となる額の使用が行われず、次年度使用額となっている。次年度以降において、2)および3)実験動物(マウス)を用いたREV7発現の腫瘍生物学的意義の解析、における研究が行われる予定であり、これらの研究における使用を計画している。
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Internal Medicine
巻: 61 ページ: 2143-2148
10.2169/internalmedicine.8391-21