本研究は「ヒト膵がん細胞-ヒト膵臓星細胞間相互作用メカニズム解明」を目的とする。 まず、細胞間相互作用メカニズムをin vivo条件に近い環境で解析可能なin vitro細胞共培養系の開発を行った。本研究の培養系は、臨床検体由来膵がんオルガノイドとヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来星細胞、そしてある培養法を応用し、確立に成功した。同培養系により、ヒト静止期星細胞がヒト膵がん細胞の細胞増殖を、ヒト活性化型星細胞はヒト膵がん細胞の抗がん剤耐性を促進すること、同時に抗がん剤試験への応用性も示された。 一方で、複数の異なる臨床検体由来膵がん細胞を用いた結果から、共培養下のヒト膵がん細胞の細胞増殖や抗がん剤耐性、ヒト膵がん細胞が形成する構造は、臨床検体間で大きく異なることも見出された。即ち、ヒト膵がん細胞-ヒト星細胞間相互作用は検体間で異なることが示唆された。これらの差異は、ヒト膵がん細胞の遺伝的背景の違いが起因すると考えられた。 以上の結果から、より一般的な同細胞間相互作用に注目することとし、対象をヒト正常膵管オルガノイドに変更、人為的に発がん誘導も加えつつ、一般的に共通する同細胞間相互作用を解析することを目指した。まず、ヒト正常膵管オルガノイドの樹立を試み、成功した。その後、ヒト正常膵管オルガノイドとヒト星細胞の共培養を行い、それらの細胞間相互作用をヒト正常膵管細胞の細胞増殖で検証した。その結果、ヒト膵がん細胞の場合とは異なり、ヒト静止期および活性化型星細胞がヒト正常膵管細胞の細胞増殖を顕著に促進することは観察されなかった。つまり、ヒト正常膵管細胞とヒト膵がん細胞とでは、星細胞との細胞間相互作用に違いがあることが示唆された。 今後は、ヒト正常膵管細胞に発がん誘導を促し、初期膵がん細胞と星細胞の細胞間相互作用を解析して行く予定であり、同時に本細胞共培養系の更なる最適化も実施していく。
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