研究課題/領域番号 |
22K15436
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 藍子 北海道大学, 医学研究院, 助教 (70831288)
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研究期間 (年度) |
2022-02-01 – 2025-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 高速AFM / ウイルスの拡散 |
研究実績の概要 |
初年度は研究項目Ⅰに取り組んだ。研究実績の概要は下記の通りである。 項目Ⅰ:様々な特性のウイルス粒子の取り込み様式 共焦点レーザー顕微鏡とAFMのハイブリッドイメージングシステムを用いて、さまざまな細胞種(Cos-7細胞やMDCK細胞など)で蛍光標識インフルエンザウイルスの細胞内への取り込み過程の観察を行った。膜の流動の高いMDCK細胞では、膜上のウイルスの拡散状態が小さく、さらに取り込みの際の膜の変形に要する時間が短くなることで、効率的にウイルスが細胞内へ取り込まれる様子が確認された。この結果から、ウイルスの取り込みには膜上のウイルスの拡散と膜の流動が極めて重要であることが示唆された。 そこで、より深く拡散と膜の流動を理解するために、ウイルスの拡散と膜の流動の定量化が可能なイメージングシステムを構築した。すなわち、カンチレバーの幅を従来のものより狭くしてバネ定数を減らし、AFM走査時の細胞への侵襲性を低くすることで、ウイルスと細胞膜間の相互作用を妨げることなくウイルスの拡散状態を画像化することを可能にした。10秒間隔で合計30フレームの画像を取得し、画像解析ソフトウェアを使ってウイルスの動きをトラッキングした。拡散係数は、時間に対するウイルスの平均二乗変位のグラフに基づき算出し、膜の流動はウイルスの拡散変位の単位時間あたりの平均値から求めた。この定量システムを使って、ウイルスと細胞種による拡散や膜の流動の違いを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに進んでいるが、ウイルス蛍光ラベル法について問題点も見つかっている。球状のインフルエンザウイルスWSN株とX31株に関しては、エンベロープタンパク質にアミン反応性AlexaFluor色素をコンジュケートすることで蛍光ラベル化が可能であり、ウイルス取り込み時の膜動態の観察が順調に進行している。一方で、多様な形状を有するUdorn株に関しては、AlexaFluor蛍光ラベル後のウイルスの回収率が極めて低いことから、「今後の研究の推進方策」の項目で述べる方法で解決策を検討している。以上のことから、全体としては、概ね予定通りに進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
項目Ⅰ:様々な特性のウイルス粒子の取り込み様式 温度が膜の流動と拡散に大きく影響することが示唆されるため、温度制御系を導入し、これまでの27度での観察に加え37度においてもウイルスの取り込み過程の観察を行う。Udorn株については、カルボシアニン色素などの脂溶性色素を使って染色を行い、染色がなされていれば取り込み過程の観察に進む。精製ウイルスの染色効率が低い場合は、膜を色素で染めた細胞でウイルスを増やす方法を検討する。 また、2022年度に確立したウイルスの拡散の定量方法について、論文としてまとめ、国際雑誌への出版を目指す。 項目Ⅱ:膜動態を制御する分子メカメニズムの解明 当初の計画通り、ウイルス表面のスパイクタンパク質であるHAとNAのウイルス取り込みプロセスへの寄与を、HAには中和抗体を、NAには阻害薬を用いて検証する。また、ウイルス様粒子あるいは偽ウイルスを用い、様々な数のスパイクタンパク質を持つウイルス粒子を作製し、両者の量や存在比率が膜動態にもたらす影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
4月から7月までの4ヶ月間、産後休暇と育児休暇取得による研究の中断で、支出する予定であった消耗品費を次年度に繰り越した。未使用の消耗品費に関しては、次年度にカンチレバーと試薬の購入費として使用する予定である。
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