コプロポルフィリノーゲン酸化酵素(Cpox)遺伝子に活性低下型突然変異をもつマウス(Cpoxnctマウス)における、コプロポルフィリノーゲン蓄積によるポルフィリン症様多臓器障害の病態変化と肝腫瘍の発症機序の解明を行い、雄性Cpoxnctマウスがヒトのポルフィリン症の多彩な病態発症の機序の解明、および介入方法の探索に有用なモデルであることを明らかとした。 3~24ヶ月齢のCpoxnctマウスの主要臓器の病理学的解析の結果、3ヶ月齢以降の雄マウスにから重篤な肝細胞障害が観察された。9ヶ月齢で一部の雄マウス(1/5)には肝腫瘍が認められ、15ヶ月以上の雄マウスの全個体(11/11)に肝癌を認めた。さらに、雄マウスは皮膚の線維化や腎臓の肥大などの病理変化に加え、20ヶ月齢以上では一部の個体(3/5)に肺癌も発症していた。一方、雌マウスには軽度の肝細胞障害が観察されたが、他の病態変化は認められなかった。 電子顕微鏡と免疫蛍光染色により雄性Cpoxnctマウスの肝細胞の病態変化をさらに詳細に解析し、細胞核形態と核膜構造の異常、広範なDNA損傷や肝細胞増殖を明らかとした。さらにRNA-Seq法によりCpoxnctマウスの肝臓におけるmRNA転写産物を網羅的に解析した。その結果、化合物代謝や脂質代謝に関係する多数の遺伝子に加えて、9ヶ月齢の雄マウスの肝細胞では細胞増殖、Protein Kinaseなど様々な生物学的経路に関与する遺伝子の発現変化が確認された。特にEGFR、Fgfr、Jun、Cdh1など発癌関連相遺伝子の発現の亢進が顕著であることから、肝細胞におけるコプロポルフィリノーゲン蓄積はDNA損傷と細胞増殖の異常亢進を惹起してがんを生じさせるとの機序が明らかとなった。
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