研究課題/領域番号 |
22K15479
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平野 順紀 大阪大学, 微生物病研究所, 特任助教(常勤) (50899101)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エンテロウイルスA71 / 3Aタンパク質 / 小胞体 / ゴルジ体 / 細胞死 / 宿主因子 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、エンテロウイルスA71非構造領域にコードされた特定のウイルスタンパク質(3Aタンパク質)に着目し、エンテロウイルスA71が誘導する細胞死経路との関連について解析を実施した。これまでの研究により、3Aタンパク質は小胞体に強いストレスを誘導し、小胞体の恒常性を破綻させることで細胞死経路を活性化させることを見出している。3Aタンパク質領域内の細胞死を誘導する責任部位の探索を行った結果、特定のアミノ酸が小胞体を介した細胞死経路の誘導には必須であることを明らかにしている。本年度は、このアミノ酸をアラニンに置換し、小胞体を介した細胞死経路の誘導能を欠いた変異体3Aタンパク質を利用し、3Aタンパク質の機能解析を行った。変異型および野生型の3Aタンパク質を細胞に発現させ、RNAシークエンス(RNA-seq)により発現が変動する遺伝子を網羅的に比較したところ、小胞体を介した細胞死経路に加えて小胞体・ゴルジ体間の輸送に関わる因子に顕著な変動が認められた。これらの因子のなかで3Aタンパク質と特に強い関連性が示唆された宿主因子に着目し、さらに解析を行った。この宿主因子を細胞に過剰に発現させた場合には、小胞体を介した細胞死経路の活性化が抑制されること、この宿主因子と3Aタンパク質が細胞内の特定領域に強い局在を示し、相互作用することを見出した。また、この宿主因子の下流で小胞体・ゴルジ間の輸送を担う別の宿主因子を過剰に発現させた場合においても、小胞体を介した細胞死経路の活性化の抑制が認められたことから、小胞体・ゴルジ間の輸送に関わる作用が重要であることが示唆された。これらの結果から、同定した宿主因子は小胞体・ゴルジ間の輸送に関わる作用を介して、3Aタンパク質の機能発揮に欠かすことのできない役割を担っていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、3Aタンパク質による小胞体を介した細胞死経路の活性化に関与する宿主因子をRNA-seqにより網羅的に探索し、候補因子を同定した。この宿主因子に3Aタンパク質が直接作用し、小胞体・ゴルジ間の輸送に関わる機能を改変することにより、細胞死経路の活性化が誘導されることを明らかにした。エンテロウイルスA71感染時に小胞体を介した細胞死経路の活性化を阻害した場合には、ウイルスによる細胞死が顕著に阻害されることからも、本年度に明らかにした3Aタンパク質を介した分子メカニズムは、エンテロウイルスA71の誘導する病原性と強く関連付けられると考えられる。本年度の実験の進捗により、エンテロウイルスA71の病原性緩和に向けた新規の知見が得られたことから、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
エンテロウイルスA71の3Aタンパク質が誘導する、小胞体を介した細胞死経路を制御する宿主因子をこれまでの検討により見出した。3Aタンパク質は、この宿主因子を標的として小胞体ゴルジ間の輸送を改変することで、細胞死経路を誘導することを明らかにしている。エンテロウイルスA71による病原部位は神経細胞であるため、本研究課題でこれまで明らかにした知見を複数の神経細胞を用いて比較解析する。3Aタンパク質の誘導する小胞体を介した細胞死経路が活性化した場合には、既知の複数のマーカー遺伝子の発現が上昇するため、これらの遺伝子の発現変動を定量し、様々な神経細胞株および非神経細胞株で差が認められるか解析する。また、3Aタンパク質が宿主因子と相互作用するために必要なアミノ酸部位は、エンテロウイルス属間で保存されているため、エンテロウイルスA71を用いて明らかにした本研究課題の現象は、他のエンテロウイルスにも適用できると考えられる。このため、ヒトに高い病原性を示すエンテロウイルスA71以外のエンテロウイルスである、コクサッキーウイルスB3、ポリオウイルス、エンテロウイルスD68等に着目し、これらのウイルスにコードされている3Aタンパク質が小胞体を介した細胞死経路を活性化するか検討する。細胞死経路の活性化が確認された場合には、エンテロウイルスA71を用いて同定した宿主因子の関連経路を、他の高病原性エンテロウイルスも改変しているか確認を行う。また、小胞体を介した細胞死経路の活性化を阻害剤で抑制した場合に、他の高病原性エンテロウイルスが誘導する細胞死も抑制できるか評価する。以上の検討を実施することで、様々なエンテロウイルスが共通して標的とする細胞内シグナル経路の特定と、関連する宿主因子を標的とするエンテロウイルス病原性緩和に向けた解析を推進する。
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