研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)感染に起因する肝細胞がん(HCC)では、ウイルスゲノムが宿主ゲノムへ挿入される現象が高頻度に検出される。このことからHBVゲノム挿入は発癌過程に関与する重要なイベントと考えられている。しかしウイルスゲノムの挿入部位や挿入DNA断片が多様であることや、現行の解析法では費用やスループット面に欠点があることからその形成メカニズムはほとんど明らかでない。本研究では、網羅的かつ安価で簡便にHBVゲノム挿入を検出できる新規手法をまず確立し、その手法を用いることでHBVゲノム挿入機構の解明を目指す。昨年までの研究により、他のウイルスゲノム挿入を簡便に検出する新規手法を応用することで、HBV-HCC由来細胞株やHBV感染培養細胞からゲノム挿入部位を同定できることを示し、さらに現行法であるハイブリッドキャプチャー法に比べてより少ないシーケンス量で同等レベルの解析を可能にすると示唆された。近年、HBV-HCC患者の血液中セルフリーDNAにHBVゲノム挿入部位由来のHBV-ヒトキメラゲノムが含まれており、HCC再発マーカーとして有用であることが報告された。そこで今年度は、本法により決定した挿入部位からなるキメラゲノムが循環血液中に存在するかを検証することで、本法の応用可能性を評価し、その成果を学術論文として報告した(Fukano K et al. Hepatol Commun. 7(12): e0328. 2023)。本研究成果によりHBVゲノム挿入現象の簡便な解析基盤が構築できたため、それを用いてHBVゲノム挿入の分子機構を解析している。
2: おおむね順調に進展している
レトロウイルスのゲノム挿入検出法として開発されたRAISING法(Rapid Amplification of Integration Site without Interference by Genomic DNA contamination)を応用することで、HBVゲノム挿入の新規検出法を確立した。今年度は特に、このRAISING法により決定した挿入部位からなるHBV-ヒトキメラゲノムが循環血液中に存在するかを検証し応用性を評価した。HBV-HCC患者を模倣するためにHBV-HCC由来細胞株を移植した担がんマウスモデルを作製し、本法で決定した配列のHBV-ヒトキメラゲノムをマウス血漿中のセルフリーDNAから検出可能であることを明らかにした。さらにRAISING法を利用することでHBVゲノム挿入の分子機構を解析しており、HBVゲノム挿入への関連が示唆される宿主因子を既に同定できている。
本年度までの研究により、HBVゲノム挿入を現行法より安価かつ簡便に検出できる新たな解析基盤を構築でき、さらにはその臨床応用の可能性も見出せた。またHBVゲノム挿入への関連が示唆される宿主因子を同定できている。そこで次年度は、その因子によるHBVゲノム挿入の制御機構を解明すべく、更なる解析を進める。またRAISING法によりHBV-HCC臨床検体中のゲノム挿入プロファイルも並行して解析しており、そこで得られた新たな知見をもとに発がん機構の解析も行う。
(理由)未使用額が生じたが、次年度に使用することが効率的かつ有効的と考えたため持ち越した。(使用計画)本年度の未使用額は消耗品購入等にあてる。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
Microbiology and Immunology
巻: 67 ページ: 281~292
10.1111/1348-0421.13064
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 675 ページ: 139~145
10.1016/j.bbrc.2023.07.014
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巻: 7 ページ: e0328
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