Regnase-1の非小細胞肺がんにおける機能は不明な点が多いが、近年、CD8(+)T細胞でRegnase-1を抑制すると抗腫瘍免疫が増強するとの報告がなされている。私は予後不良であるNRF2活性化肺がん細胞において、治療候補を探索し、興味深い標的として Regnase-1(遺伝子名:ZC3H12A)を特定した。そこで、TCGAのデータベース解析を実施した。ZC3H12A発現とNRF2活性化に相関は認めなかったものの、興味深いことに、ZC3H12Aの発現が高い患者ではその予後が不良であることがわかった。さらに、正常組織と比較してがん部においては、ZC3H12Aの発現が高いことが明らかになった。以上から、非小細胞肺がんにおいてRegnase-1ががんの悪性化に貢献する場合、Regnase-1の抑制は腫瘍と腫瘍微小環境両者に有効な治療標的になると考え、ゲノム編集技術によりRegnase-1を複数の非小細胞肺がん細胞でノックアウトした細胞を作成した。まず、RNAシーケンス解析を行なったところ、ノックアウト細胞では腫瘍幹細胞性に貢献することが知られるSOX2関連遺伝子群が顕著に低下していた。実際、オンコスフェア形成能や連続移植実験を行い、Regnase-1ノックアウトにおいて、腫瘍幹細胞性の著しい低下を認めた。また、一時的なRegnase-1ノックダウン実験においても、普遍的に非小細胞肺がん細胞で幹細胞性が低下することが明らかになった。また、マウスにがん細胞を移植し、腫瘍を形成させた後にRegnase-1の誘導的ノックダウンを行ったところ、著明な腫瘍増殖の抑制効果を認める結果となった。以上から、Regnase-1は非小細胞性肺がん、特に治療標的の探索に難渋している扁平上皮がんや大細胞がんにおいて、良好な新規治療標的になる可能性が示された。
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