研究課題
本年度は転移ニッチラベリングシステムを用いて、肺転移については、がん細胞の適応メカニズムを、肝転移についてはミエロイド細胞や肝実質細胞の変化について検討した。肺転移がん細胞では、肝転移がん細胞と比較してYAP/TAZシグナルやPiezo1/2といったメカノセンサーの発現が上昇している可能性を見出した。YAP/TAZノックダウン細胞株を作成すると、肺における腫瘍の成長が遅延し、腫瘍周辺に浸潤するCD8+T細胞の増加が認められた。現在、YAP/TAZ上流因子としてPiezo1/2に着目し、ノックダウン細胞株を用いて肺転移巣形成や腫瘍免疫との関連を検討している。一方、肝転移ミエロイド細胞は、肺転移巣と比較し、Arginase1の発現が顕著に高いことを発見した。Arginase1の過剰発現のメカニズムをin vitroで検討したところ、肝臓がほかの臓器と比較して酸素分圧が低いことと、ここにがん細胞が分泌する液性因子が加わることで、相乗的に誘導される現象であることもわかった。以上の結果は、Arginase1阻害剤が肝転移特異的な治療薬になる可能性を示している。一方、臓器特異的な転移ニッチの形成には、その臓器固有の実質細胞の影響が大きいのではないかという仮説のもと、転移がん細胞周辺の肝臓実質細胞についてもRNA-seqを行った。その結果、肝転移ニッチにおける肝実質細胞は、脱分化を起こしていることを示唆する遺伝子プロファイルを示し、がん細胞周囲で肝実質再生応答が起こっている可能性が示された。この意義については、さらなる検討が必要である。
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