研究課題/領域番号 |
22K15523
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
射場 智大 金沢大学, 医学系, 助教 (10908205)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 血管周皮細胞 / 転移性腫瘍 / ペリサイト |
研究実績の概要 |
悪性新生物は死因の第1位となっており、これは年齢階層別に見ても常に上位にあり、人類が克服すべき重大な疾患である。これら腫瘍を治療する上で、その大きな障壁の1つとして、腫瘍が転移能を獲得することによって、原発巣の除去のみでは根治することが困難となる事が挙げられる。本研究の目的は、この転移能を標的とした新しい治療法の開発において、その基礎理論を構築することであり、特にペリサイトと呼ばれる血管周皮細胞に着目して研究を行う。ペリサイトは自身が血管内皮細胞と接着する事によって血管統合性の維持を担っているだけではなく、様々なシグナル分子や細胞外基質を分泌することにより、血管だけではなく周辺組織の結合性の維持にも関与していることが知られている。これらのことから、ペリサイトは腫瘍転移制御において重要な役割を担っていると考えられる。 本研究では、ペリサイトが腫瘍環境下において特徴的な機能変化があるか、特に転移性腫瘍の微小環境下における機能的変化が、転移能にどのように関与しているか、これらを制御することによって転移を抑制することが出来るかについて検討を行う。 本年度は、非転移性腫瘍、転移性腫瘍を移植したマウスより、それぞれ腫瘍実質細胞及び腫瘍間質細胞をセルソーティングにより分離し、シングルセルライブラリーを作成しシークエンスを行った。これらより得られたデータを用い、異なる腫瘍環境下においてペリサイトにどのような変化があるか、バイオインフォマティクス的解析を行った。その結果、下記のことが示された。 ①転移性腫瘍内のペリサイトで非転移性腫瘍内のペリサイトと比較して高発現となる遺伝子群を同定することができた。 ②上記で同定された遺伝子群には腫瘍の転移能に関与する可能性があるシグナル経路に属する遺伝子群が含まれていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は転移性腫瘍内におけるペリサイトの変化を明らかとすること、また、変化したペリサイトが担う腫瘍内での機能を幾つかのアプローチによって明らかとすることであった。 これらの研究目標を達成するために、非転移性腫瘍、転移性腫瘍を移植したマウスより、それぞれ腫瘍実質細胞及び腫瘍間質細胞をセルソーティングにより分離し、シングルセル解析を行った。シングルセルデータ解析用パッケージであるSeuratを用いたクラスター解析によって、得られた腫瘍組織内細胞からペリサイトの細胞集団を同定し、この集団について転移能の有無による変化について解析を行った。特異的遺伝子発現解析の結果、非転移性腫瘍及び転移性腫瘍のペリサイトクラスターを比較すると15の遺伝子が非転移性腫瘍で有意差を持って発現が高く、88の遺伝子が転移性腫瘍において有意差を持って発現が高い事が明らかとなった。これらの特徴的発現遺伝子群の中から、特に、転移性腫瘍のペリサイトで高発現している遺伝子群について着目すると、これらの遺伝子群は腫瘍の転移能と関与していると考えられるような複数のパスウェイに関与している遺伝子群であることが明らかとなった。以上のことを踏まえ、本年度は概ね順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度で得られたパスウェイ解析によるペリサイトの機能変化に加え、細胞間相互作用解析を元としたアプローチによって、転移性腫瘍内ペリサイトが担う転移能への関与をより詳細に明らかとする予定である。これらのデータを組み合わせ、腫瘍の転移能に関わる制御ポイントの候補を探索していく。具体的には細胞間相互作用解析にはCellphoneDBを含む複数のシングルセルデータ解析用パッケージを用い、ペリサイトと血管内皮細胞、血球系細胞など腫瘍微小環境を構築する種々の細胞集団間でどのような情報伝達経路が働いているか、解析を行う。これらの解析結果と、本年度に得られた特徴的発現遺伝子解析とパスウェイ解析の結果と統合し、転移能制御に繋がる候補因子の探索を行う。候補因子の絞り込みには、バイオインフォマティクス的な探索を行った後、候補となる因子について中和抗体や阻害剤などの投与、ウイルスベクターを利用した候補因子の遺伝子導入、あるいは欠損によってさらなる絞り込みを行う所まで進めたいと考えている。また、本年度の研究遂行中に新たに浮上した課題として、1度の腫瘍組織採取によって得られるペリサイトの細胞集団は十分と言えるほど多くはなく、可能であれば追加で組織採取を行い、これらの細胞データを積み増しした上で、より詳細な検討を推し進めたいと考えている。
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