研究実績の概要 |
本研究は、治療抵抗を示す根源が腫瘍の幹細胞性質にあると考え、その幹細胞性質の原因となりうる因子の1つがEGFR-mTOR-Polycombシグナルによって引き起こされているのではないかと考えている。最終年度は、グリオブラストーマの細胞株U87を用いて幹細胞誘導を行い、Polycomb群などのエピゲノム因子を標的とした治療モデルを確立し、将来的な臨床応用への可能性を検討した。Polycomb群や初年度で解析したPolycomb群の標的因子に対するノックアウト/ノックインU87細胞株をCRISPR/Cas9によって樹立し、in vitroでのアッセイを行った。具体的には、幹細胞となった脳腫瘍細胞(Neurosphere)の誘導の成否に加えて、細胞増殖能、治療感受性を検証した。 結果として、Polycomb群やPolycomb群の標的因子をノックアウトした変異細胞の一部は、幹細胞化への誘導が失敗し、治療抵抗を示さなかった。すなわち、標的因子のいくつかが治療候補になりうる結果を得た。今後はCRISPRスクリーニングを行い、どういった因子がより強い幹細胞化への責任因子となりうるのか検討を行い、より直接的な治療標的となりうる因子を同定する。 一方で、悪性脳腫瘍の特徴の1つでもある"DNAの低メチル化"が、EGFR-mTOR-Polycombシグナルによって引き起こされていることがわかった。mTOR複合体の1つmTORC1がPolycomb群の構成タンパク(EZH2など)の翻訳を促進して膠芽腫細胞でのPolycombの異常な活性化とヒストンメチル化を促進していることを報告したが[Harachi,2020]、一方でmTORC2がPolycomb群のゲノム結合領域の分布を変えることで、その標的の1つDNAメチル化酵素(Dnmt3A)の発現をエピジェネティックに制御することがわかった[Harachi,2024]。
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