研究課題
近年、アンチセンスRNAのような、遺伝子をコードしないnon-coding RNA (ncRNA) が発がんに影響することが明らかにされてきた。一方で、研究が進んでいるのは特定のncRNAに限定されており、ほとんどのncRNAの発現機構や生理学的意義は未解明である。申請者のグループは、テロメラーゼ逆転写酵素hTERTが、RNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRP) 活性を示し、そのRdRP活性によるアンチセンスRNAの合成が腫瘍形成を促進することを明らかにした。本研究では、がん細胞においてhTERTに結合するRNAを網羅的に解析することで、hTERTのRdRP活性により合成されるRNAを同定し、RdRP活性による遺伝子発現制御が、発がん過程に与える影響の分子基盤の解明を目指す。まず、抗hTERT抗体を用いて、hTERT結合RNAの網羅的解析を実施するために、抗hTERT抗体を用いた免疫沈降条件を検討した。得られた条件で回収したhTERTに結合しているRNAを精製し、次世代シークエンサーで解析したところ、テロメアリピート配列(UUAGGG)を有するncRNAであるTERRA RNAと結合していることが明らかになった。近年、TERRA RNAは、それと相補的なゲノムDNAとハイブリッドし、RNA/DNAハイブリッドから成るR-loop構造を形成していることが報告されている。R-loop構造はDNA損傷の原因となり、ゲノム不安定性につながることが知られているが、詳細な機能解析の結果、hTERTのRdRP活性は、TERRAが形成するR-loop構造を解消し、ゲノム安定性に寄与することが明らかになった。また、RdRP活性を欠損させた腫瘍の増殖は、顕著に阻害されていた。以上の結果より、hTERTのRdRP活性は、TERRA RNAを標的にすることで、腫瘍形成を促進することが示された。
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Nature Cell Biology
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