研究課題/領域番号 |
22K15575
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 雄介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80931807)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CAR-T細胞療法 / キメラ受容体 / IL-7 / IL-6 / TGF-β |
研究実績の概要 |
キメラ抗原受容体(CAR: Chimeric antigen receptor)導入T細胞療法(CAR-T療法)の登場により、がん治療の成績は向上してきたが、がん免疫療法の有効性は未だ限定的であり、主な原因の一つとして腫瘍微小環境中の免疫抑制シグナルが挙げられる。本研究では、TGF-βなどのサイトカインに着目した。TGF-β受容体の細胞外ドメインと、IL-7やIL-21といったT細胞機能を高めるサイトカイン受容体の細胞内ドメインを連結させた新規の人工受容体を設計し、CAR-T細胞に搭載することを考案した。このT細胞にTGF-βを添加したところ、TGF-βの本来の下流シグナルであるSMAD2、SMAD3のリン酸化が起こらなくなり、代わりにIL-7の下流シグナルであるSTAT5や、IL-21の下流シグナルであるSTAT3のリン酸化が生じることを示した。 一方、CAR-T細胞療法の副作用としてサイトカイン放出症候群(CRS: cytokine release syndrome)が重要である。IL-6が原因と考えられ、IL-6抗体がCRSの治療に用いられる。我々は、CRSを予防する機能をCAR-T細胞に搭載するため、IL-6の受容体であるIL-6R、gp130の細胞外ドメインを繋げ、これにIL-7受容体の細胞内ドメインを連結させた。加えて、IL-7受容体の活性化変異体を用いることで、IL-7シグナルを恒常的に賦与させた。このキメラ受容体を搭載したT細胞にIL-6を添加したところ、IL-6を捕捉した後に受容体がinternalizationを起こし、培地中のIL-6濃度を速やかに減少することを示した。また、IL-7シグナルにより、T細胞の増殖能を長期間維持することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGF-β+IL-7受容体、IL-6+IL-7受容体といった複数のキメラ受容体を新規に設計し、T細胞に搭載した。in vitroでシグナル変換機能、サイトカイン捕捉機能を発揮することを示すことができ、今後in vivoの実験に進むにあたり、十分なデータを得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
IL-7シグナルによるCAR-T細胞の抗腫瘍効果向上を示すため、複数のマウスの腫瘍モデルを用いたin vivoでの有効性を検証していく。NSGマウスに白血病細胞株(NALM6)の静脈内投与、膵癌細胞株(AsPC1)の皮下投与を行って腫瘍を発症させ、CAR-T細胞を静脈内投与する。末梢血採血や腫瘍径で腫瘍増殖速度を経時的に測定し、抗腫瘍効果を検証する。また、in vivo imaging systemや末梢血採血で体内のCAR-T細胞数を評価し、IL-7シグナルが体内でのCAR-T細胞のpersistenceを高めることを検証する。 また、CRS予防効果を示すため、NOGマウスに臍帯血CD34陽性細胞を移植するヒト化マウスの実験系を樹立し、in vivoでCRSを抑制できるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規キメラ受容体の設計が当初想定したよりも順調に完了したため、本年度の当初計画よりも支出額が下回った。来年度はin vivoでの機能解析を重点的に行う予定であり、免疫不全マウスやヒト化マウスなどを用いるため、残額を活用する予定である。
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