研究課題
がん遺伝子パネル検査を臨床活用推進のための、病的意義不明の遺伝子バリアント(Variants of unknown significance; VUS)の効率的な機能解析のための、スーパーコンピューターによる分子動力学(MD; Molecular Dynamics)シミュレーション解析を実施している。これは病原性の可能性があるVUSを効率的に抽出し、活性化メカニズム毎に分類する、という新たなVUS解析手法の構築のための研究である。研究では我々の以前の研究結果をベースとして、HER2細胞外ドメインでの解析をケースモデルに研究を行っている。これまで、解析対象バリアントの検討を実施し、いわゆるポジティブコントロールとして使用する病原性バリアントと、それらを用いて評価を行うための対象となるVUS側のバリアントの抽出を完了させた。また、HER2細胞外ドメインのMDシミュレーションを実行するための初期構造モデルに関して、我々の前回の研究以降HER2-HER3ダイマー構造が新たに報告されていたため、その情報も取り入れたHER2ダイマーの初期構造決定(HER2-EGFRやHER2-HER2の構造はまだ実験的には明らかになっていない)のためのスーパーコンピューター富岳を用いた計算を実施し完了させた。また、病原性バリアントのHER2ダイマーとHER2モノマーにおけるMDシミュレーションを現在進めている。さらに、我々が以前の解析でHER2-EGFRヘテロダイマーが活性化メカニズムの一因である事を明らかにしたHER2 E401G変異に対して、そのバリアントをもつがんモデルを用いてin vitroとin vivoでの実験で、推定したメカニズムに基づく治療が有望であることを明らかにし、その内容を論文化した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の節電の必要性によって富岳の計算が一時抑制された事なども、進捗には一部影響した。しかし、その後は通常どおりの計算が可能になり、概ね予定通りに研究を進める事ができている。
上記の通り、現在は病原性バリアントのMDシミュレーション計算を富岳で実行中である。計算量が多いためまだ計算が完了しておらず、今後も継続して、計算後処理を行なった後に結果の解析・解釈を行い、病原性バリアントのMDシミュレーション上の特徴を明らかにする。また、病原性が明らかになっているが活性化メカニズムが不明であるバリアントについても、それをカテゴリー化していくことで今後の治療アプローチの検討のために有効である可能性があるため、そういった視点でも解析を進める予定である。その後、VUSのMDシミュレーションに関してさらに計算を実施し、VUS機能推定のための解析手法の構築を進めていく。
研究計画は2023年度までであるため
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BMC Cancer
巻: 23 ページ: -
10.1186/s12885-022-10428-3