研究実績の概要 |
近年、免疫チェックポイント阻害剤に代表される免疫治療が臨床試験での有効な治療成績を基に臨床応用されているが、胃癌の最多の転移形式である胃癌腹膜播種への治療効果は乏しく、胃癌腹膜播種特有の腫瘍免疫微小環境の解明が望まれる。本研究は、癌性腹水を利用し胃癌腹膜播種の免疫治療抵抗性に関わる因子を同定することを目的とした。まず、胃癌腹膜播種患者8症例の癌性腹水を全エクソームシークエンス(WES)、シングルセルRNAシークエンス(scRNA seq)へ提出し、腹水がん細胞クラスター集団にしぼった系統樹解析を行うと、SNV変異のクラスタリングの手法から、分岐系統でなく、Clone, Subclone 1, Subclone 2の順に線形系統のサブクローン進化が想定された。さらに、CloneとSubclone 1のグループ集団の比較において、UBE2C、ARL6IP1, CKS1B遺伝子変異がSubclone 1においてup-regulationしており、さらにCloneとSubclone 2のグループ集団の比較において、UBE2C、UBE2S、HIST1H4C、CKS2、HMGB2、CKS1Bといった遺伝子変異がSubclone 2でup-regulationしている一方で、FTL、HSPB1、S100A6といった遺伝子変異がCloneでup-regulationしていた。これらの遺伝子変異が胃癌腹膜播種におけるサブクローン進化構造に関わっており、治療抵抗性と関連している可能性が示唆された。特にUBE2CやCKS1Bについては、これまでも予後不良や治療抵抗性との関連の報告があり、これらの遺伝子変異を中心に、免疫微小環境との関連について今後さらなる検討を行い、胃癌腹膜播種の免疫動態の解明と新たな治療標的の同定へとつなげる予定である。
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