研究課題
アスタチン-211標識後、溶液中に生じる活性酸素種によって標識抗体が放射線分解を受けると、特異的結合能が障害され、薬効が減弱することをこれまでに明らかにしてきた。本研究では、放射線分解が標識抗体の薬物動態に及ぼす影響を検証すべく、放射線分解されたアスタチン-211標識抗体とラジカルスカベンジャーであるアスコルビン酸ナトリウムを添加して、活性酸素種を消去し、保護した標識抗体を、担癌マウスにそれぞれ投与し、腫瘍集積と正常臓器への分布を評価した。その結果、両者の血中滞留性と正常臓器への分布は同等である一方で、放射線分解を受けた標識抗体の腫瘍集積は、保護した標識抗体と比較し、有意に低下することが分かった。放射線分解は、抗原抗体反応を介した能動的標的化を障害する一方で、enhanced permeability and retention effect(EPR効果)を介した受動的標的化には影響しないことを示唆する結果である。また、腫瘍細胞に結合する抗体と結合しないコントロール抗体にアスタチン-211を標識し、アスコルビン酸ナトリウムを添加して放射線分解から保護した上で、担癌マウスに投与し、体内動態を評価した。腫瘍細胞に結合する標識抗体を投与した場合は、腫瘍におけるpercent injected dose/g(%ID/g)は、血液におけるそれを上回ったが、アスタチン-211標識コントロール抗体を投与した場合は、腫瘍の%ID/gは、血液のそれを下回った。アスタチン-211の腫瘍送達においては、能動的標的化が特に重要である。アスタチン-211の正常臓器への分布をより厳格に低く抑えるべく、複数の標識用試薬を準備し、これらをそれぞれ抗体に付加した複合体を作製の上、アスタチン-211を標識し、担癌マウスにおける体内動態の差異を検証した。
2: おおむね順調に進展している
放射線分解がアスタチン-211標識抗体の薬物動態に及ぼす影響を明らかにし、この結果を論文化した。また、放射線分解からアスタチン-211標識抗体を保護し、腫瘍集積性を維持するために必要かつ十分な保存条件を検討し、これを決定した。アスタチン-211標識に用いる至適なリンカー構造を明らかにすべく、複数のリンカー化合物を準備し、これらを抗体にそれぞれ付加した複合体を作製した。本研究では、これまでに報告のないリンカー化合物も用いているが、既報の標識用試薬と比較して遜色のない比放射能で、アスタチン-211の標識が可能であった。保存溶液中におけるアスタチン-211の抗体からの遊離を評価し、リンカー構造によって遊離の程度が異なることを確認した。また、担癌マウスに対してアスタチン-211標識抗体を投与し、リンカー構造の違いによってもたらされる薬物動態の差異を検証した。抗体工学の手法を用いて抗体の生体内における腫瘍特異性を向上させることが本研究の目的の一つである。研究計画に準じて、複数の改変抗体を作製した。
異なるリンカーを介してアスタチン-211を標識した抗体の体内動態に関するデータを蓄積し、リンカー構造がアスタチン-211標識抗体の薬物動態に及ぼす影響を明らかにしていく。2022年度に作製した複数の改変抗体に対して放射性同位元素を標識し、担癌マウスにおけるこれらの腫瘍集積や臓器分布等の体内動態の差異を評価する。加えて、この薬物動態の差異が、アスタチン-211を標識した場合の毒性などにどのように反映されるのかという点を検証していく。
2022年度は、リンカー構造が異なるアスタチン-211標識抗体の体内動態を評価すると共に、複数の改変抗体を作製した。2023年度は、2022年度作製した各改変抗体に放射性同位元素を標識し、担癌マウスにおけるこれらの腫瘍集積や臓器分布等の差異を評価する。加えて、この薬物動態の差異が、アスタチン-211を標識した場合の毒性等にどのように反映されるのかという点を検証していく。放射性同位元素の購入費、細胞培養やモデル動物の作製並びに飼育のための費用等に助成金を使用する。
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Molecular Pharmaceutics
巻: 20 ページ: 1156~1167
10.1021/acs.molpharmaceut.2c00869