研究課題/領域番号 |
22K15596
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鄭 齢 筑波大学, 医学医療系, 助教 (70833565)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 扁平上皮癌 / THG-1 / HIF-1α |
研究実績の概要 |
THG-1は扁平上皮癌で高発現するタンパク質で、食道扁平上皮癌細胞ではTHG-1のノックダウンにより、がん細胞の増殖、浸潤、腫瘍形成能が低下した。このような結果はがん細胞において過剰に発現したTHG-1が腫瘍形成や悪性化に関与している可能性を示す。さらに THG-1はMAPKシグナルによってリン酸化され、THG-1のリン酸化を誘導する増殖因子シグナル伝達経路の異常な活性化は、5割以上の扁平上皮癌で認められる。このような知見はがん細胞において過剰に活性化された THG-1(特にリン酸化)が、腫瘍形成の促進やがんの悪性化に寄与するものと考えられる。扁平上皮癌のおけるTHG-1の役割のさらなる理解及び臨床的な意義について明らかにすることができれば、新規診断及び分子標的治療に応用できると考えられる。相互作用タンパク質の同定は、THG-1の働きを解析する上で非常に重要な情報の一つである。申請者はTHG-1と結合するタンパク質として、プロリルヒドロキシラーゼを同定した。同定したタンパク質はHIF-1α(Hypoxia Inducible Factor-1α)の分解を誘導するプロリルヒドロキシラーゼタンハク質である。THG-1はそのプロリルヒドロキシラーゼとの相互作用を通してHIF-1αの分解を抑制し、この作用はTHG-1のリン酸化によって増強することを見出した。本来分解されるべきHIF-1αが扁平上皮癌でTHG-1により異常蓄積され、血管新生を誘導し、がん細胞の代謝リプログラミング、及び上皮間葉転換などを誘導することで、がんの増殖、浸潤及び転移など悪性化に寄与すると考られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
THG-1とプロリルヒドロキシラーゼとの結合に重要なドメインの特定を行い、THG-1のN末端の約10個のアミノ酸がプロリルヒドロキシラーゼとの結合に重要であることを見出した。さらにプロリルヒドロキシラーゼと結合できないTHG-1の変異体を用いてHIF-1αタンパク質の安定性における影響を検討した。その結果、プロリルヒドロキシラーゼと結合できないTHG-1の変異体の発現細胞ではHIF-1αタンパク質の蓄積を誘導することができなかった。HIF-1αは、低酸素によって発現誘導され、VEGF、糖代謝酵素の発現を行うことで、虚血状態の改善、及び細胞生存に関与する重要な転写因子である。また固形腫瘍ではHIF-1αの発現誘導を介して血管新生を誘導し、がん細胞の代謝リプログラミング、及び上皮間葉転換を誘導することで、がんの悪性化に寄与することが知られている。そのため同じくプロリルヒドロキシラーゼと結合できないTHG-1の変異体の発現細胞でHIF-1αのターゲット遺伝子の発現を調べた結果、野生型THG-1の発現細胞と比べて発現が低下したことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
THG-1-プロリルヒドロキシラーゼ結合に重要なアミノ酸の同定を約10個のアミノ酸からさらに絞るために解析を進める。またプロリルヒドロキシラーゼと結合できないTHG-1変異体の発現細胞を樹立し、腫瘍形成能の評価及び腫瘍を用いてRNA-seq解析を行う。プロリルヒドロキシラーゼと結合できないTHG-1の変異体を用いて見出した結果は、THG-1を標的としたプロリルヒドロキシラーゼ-THG-1阻害剤が、プロリルヒドロキシラーゼによるHIF-1α抑制作用を回復させる可能性を示した。そのためタンパク質間相互作用を阻害する合成物の同定を検討する。
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