研究課題/領域番号 |
22K15606
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
澤田 隆一郎 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (60912160)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 直腸癌 / 術前化学放射線療法 / アデノシン受容体 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
本研究は局所進行直腸癌において免疫抑制に働くアデノシン2a受容体に対する拮抗薬を使用することで、術前放射線化学療法を発展させた新規治療の開発を目的とした。これまで神経領域のターゲットとして考えられてきたアデノシン経路が腫瘍免疫微小環境での役割を持つことに着目して研究を進めた。局所進行直腸癌において局所制御のために術前化学放射線療法(CRT)が広く行われているが、CRT単独による奏効率は限定的である。我々は治療前のCD8+T 細胞濃度は腫瘍縮小グレードの独立した予測因子であることを報告している。また、CRTによって腫瘍浸潤 CD8+T 細胞の増加およびPD-L1+免疫細胞の誘導されることも報告し、これらの結果はCRTと免疫療法の併用が有効となる可能性を示している。CRTは免疫応答性細胞死を誘導し、抗腫瘍応答を呼び起こすことが知られている。このプロセスにおけるメディエーターとしてATPが関与しており、ATPの免疫賦活化作用は、ADOによる免疫抑制作用へと転ずる。したがって、放射線治療時にA2aRを拮抗させることで、腫瘍特異的T細胞増殖を誘導し抗腫瘍免疫反応を増強させることが可能と考えられた。本年度は術前化学放射線療法に加えて選択的側方郭清を行うことで良好な長期成績を示すこと、また進行直腸癌において化学放射線療法、化学療法の後に鼡径リンパ節郭清を行うことで長期生存を得られうることを示した。今後は免疫微小環境の研究を臨床成果に還元させることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
直腸癌術前化学放射線療法の症例の集積を行い、研究実績の項での発表を行った。続いて、ヒト直腸癌術前化学放射線療法におけるA2AR、CD73の臨床的重要性を明らかにするために、ヒト直腸癌化学放射線療法施行症例70例の生検及び手術標本を用いて分子発現をしらべることを目的とした。免疫染色を全症例で行ったが、染色条件の再検討および染色結果の評価に時間を要している。また今後は、ISH法、二重染色を用いて細胞内局在を解析することを予定している。マウスを用いた研究では肥満の腫瘍免疫微小環境に与える影響に関して、大腸癌細胞株を利用して担癌肥満マウスモデルを確立した。そして同モデルにおいてCD4+T細胞の数の減少を示した。引き続きマウスモデルを用いた腫瘍微小環境の研究も並行して行い、本研究課題の解明に努める。
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今後の研究の推進方策 |
上述の免疫組織学的解析を行った後は、治療成績との相関性の検証に移る。また、その結果に応じてCRTにおけるADO/CD73/A2aRの細胞内シグナル動態を明らかにするために、HCT116およびLoVo等のMSI-H細胞株とMSS細胞株を用いて放射線処理およびATP刺激によるADO濃度、A2AR、CD73のmRNA発現レベルの変化を解析することを計画している。さらにはマウス大腸癌細胞株を用いて、局所放射線治療前後のADOの腫瘍濃度、A2aR、CD73発現の経時的変化の検証を計画する。そして局所放射線治療に抗A2ARを追加する可能性についての探求を行う。
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