研究課題/領域番号 |
22K15609
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
松岡 祐子 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教 (10879711)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | T細胞老化 / 老化T細胞 / Bach2 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
今日、免疫細胞を用いた細胞療法ががん治療の選択肢の一つとして注目を集めている。中でもキメラ抗原受容体(CAR)T細胞に代表されるT 細胞養子免疫療法は一部のがんに対して優れた効果を発揮しているが、未だ多くのがん種に対してはその効果が限定的である。その原因の一つとして T細胞老化があげられる。養子T 細胞免疫療法では生体外で長期間T 細胞を培養し増殖させたものを生体内に移入する。その際、一部のT細胞にT細胞老化が誘導されることが報告され、抗腫瘍効果を十分に発揮できない状態であると考えられている。そこで生体に移入する前に、老化T 細胞及び老化前駆T 細胞を除去する方法が求められている。 T 細胞は抗原刺激により細胞内代謝が大きく変化する「代謝リプログラミング」が起こる。我々は、代謝リプログラミングによる細胞内代謝変化がエピジェネティック変化を誘導し、老化を含むT細胞分化の運命決定に関与していると考えており、本研究では代謝産物解析と遺伝子解析を用いることで老化T細胞のマーカーを同定することを目標とした。我々の研究室では転写因子Bach2を欠損させたT細胞では抗原刺激後早期に老化様の表現型を示すことを報告している。これを老化T細胞モデルとして老化T細胞解析に用いた。 老化T細胞による抗腫瘍活性能への影響を検証するため担がんマウスに対し活性化した野生型CD8 T細胞及びBach2欠損CD8 T細胞を移入した。腫瘍サイズを測定することで評価したところ、Bach2欠損CD8 T細胞移入群では野生型に比べ腫瘍サイズが抑制傾向にあった。そこでT細胞特異的Bach2欠損マウスに腫瘍を直接移入し抗腫瘍活性を評価したところ腫瘍を強く拒絶することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究室ではこれまでBach2を欠損したT細胞において抗原刺激後早期に老化様の表現型を示すことを報告している。そのため担がんマウスにBach2欠損T細胞を移入した実験においても、T細胞老化の影響により抗腫瘍活性の低下が見られると予想した。しかしながら、結果はBach2欠損T細胞移入群で野生型T細胞移入群より強い抗腫瘍効果が見られる傾向にあった。さらにT細胞特異的Bach2欠損マウスに直接腫瘍細胞を移入すると、野生型と同様に腫瘍細胞が生着するものの、ある一定時期になると腫瘍が排除された。これらの結果から、Bach2欠損によって誘導される老化T細胞では抗腫瘍効果が増強している可能性が示唆された。 Bach2の骨髄キメラマウスでは野生型マウスに比べ強い抗腫瘍効果が見出されるとの報告がある。これは制御性T細胞の存在割合が野生型マウスに比べBach2の骨髄キメラマウスで減少するためフェクターT細胞への抑制が低下することが一因とされている。今回我々は培養したCD8 T細胞のみを担がんマウスに移入しているにも関わらず同様の傾向を見出した。これらの結果はBach2欠損によって誘導されるT細胞老化は抗腫瘍免疫においてはポジティブな効果をもたらすことが予想された。
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今後の研究の推進方策 |
抗原刺激後早期に老化様の表現型を示すBach2欠損T細胞で、野生型T細胞に比べて強い抗腫瘍活性が見られることから、これらが抗原刺激後にどのような代謝変化を起こすのか検討する。その上で、T細胞特異的Bach2欠損マウスで見られるような強い抗腫瘍活性がどのように誘導されてくるのかを検討する。具体的にはBach2欠損CD8 T細胞と野生型CD8 T細胞を活性化させた時の細胞内代謝変化についてフラックスアナライザーを用いて検討する。また、代謝産物の阻害剤を用いて活性化時の代謝状態を制御することで抗腫瘍活性能にどのように影響を及ぼすのかを担がんマウスへの移入によって評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画していた実験が次年度に繰り越すため、試薬などの物品の購入も次年度に調節したため。
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