研究実績の概要 |
さらなる膵癌治療成績の改善には周術期のバイオマーカー開発、それに基づく個別化治療の確立が不可欠である。本研究では、膵癌に対する周術期のリキッドバイオプシーバイオマーカーの探索を目的としている。術前保存血漿が得られた33症例において保存血漿からcell-free DNAを抽出し、401遺伝子を対象としたoncopanel sequenceを行なって包括的に遺伝子異常探索を行なった。 結果1, 予後予測: 33症例のうち、21症例でドライバー変異を検出しこれらをcirculating tumor DNA (ctDNA)陽性群とすると、有意にctDNA陽性群で早期再発が多く、独立して予後不良であることが明らかとなった。そして検出されたドライバー変異の数で予後が層別化できることも明らかとなった。 結果2, 標的治療のコンパニオンマーカー: 頻度は低いもののアクショナブル変異(KIT, PDGFRA, EGFR , ALK, IDH2など)も同定された。 結果3, 免疫療法のバイオマーカー: TMB(Tumor mutation bnurden)が免疫治療のバイオマーカーとして注目されている、組織で検出されるTMB(tTMB)と血液で検出されるTMB(bTMB)の相関を解析したところ今回は有意な相関を認めなかった。 結果4, 補助療法との関連: 術後補助療法の開始が遅れたか、あるいは受けなかった患者においてのみ、術前ctDNA陽性は不良なRFSと関連していた。術後補助療法の開始が遅れることで、ctDNA陽性症例が再発に至る猶予を与える可能性があることを示唆している。術前ctDNA陽性膵癌では、特に併存疾患や術後合併症を考慮した手術、および術前術後補助療法戦略が必要であることが示唆された。 以上の結果より、膵癌の周術期治療戦略の最適化にリキッドバイオプシーは有用であることが示唆される。
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