研究課題/領域番号 |
22K15621
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上田 博之 京都大学, 工学研究科, 助教 (20909808)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 低周波磁場計測 / スピンロックシーケンス / 低磁場fMRI / Bloch方程式 / 解析解 |
研究実績の概要 |
本研究課題において、磁気共鳴現象を用いて神経磁場をMR画像のコントラストに反映するスピンロックシーケンスについて、α波以下の低周波の活動を計測可能であるのか検討を行った。スピンロックシーケンスは従来手法と比べて、血行動態を介さずに神経磁場を用いて直接計測できるため、時間分解能の改善や低磁場MRI装置への適用可能性という点で利点を有している。スピンロックシーケンスでは、定常的な反応、例えば定常誘発反応などを対象に検討が進められてきた。しかし、我々の検討から定常反応に対して周波数依存性がある可能性が示唆されていたため、特に計測が困難になりうる低周波の脳活動を計測可能であるのか、数値計算や支配方程式であるBloch方程式を解析することで計測可能性を模索した。 本年度の検討では、まず検討の基礎となるプロトン磁化の挙動解析を見直した。プロトン磁化はMR画像の信号源であり、これの解析により計測対象磁場がMR画像にどのようなコントラスト変化を付与するのかが明らかとなる。まず、数値解析を行い、それを我々が以前導出した解析解と比較した。解析解を用いることで数値計算の速度を大幅に向上できる上に、様々な条件下での解析が可能となるが、100 Hz前後の帯域では良い精度を示した一方で、低周波成分では挙動が大きく異なることが明らかとなった。これの要因として、解析解の導出過程に用いた回転波近似が影響していることが明らかとなり、これを用いない解析解の導出を試みた。しかし、非線形性があるため解析解の導出は困難ではあったが、その過程でT1緩和の影響を考慮可能なアプローチを発見し、低周波・高周波問わず計算精度を一段と向上することが出来た。 今後は、低周波での検討において影響が少ない近似方法の検討と、周波数あるいは位相変調を用いた新たなスピンロックシーケンスの有効性の検討と低周波計測における有用性の検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、低周波の脳活動を計測するためにスピンロックシーケンスを適切に設計する必要があり、そのためには解析解あるいは数値計算によるMR画像のコントラスト変化を予見する必要がある。これを実現するうえで、解析解は非常に強力なツールであるが、先行研究で提案したものではhigh-γ帯などの高い周波数領域では精度は良いものの、α波帯域などの低周波帯域での精度が、数値計算と比較して大きく異なることが明らかとなった。これは、MR画像の信号源たる磁化挙動を記述するBloch方程式を線形化する上で、回転波近似を用いたことに起因する。そのため、回転波近似を用いない解析解の導出を試みた。Lie代数を用いてSU(3) になるように、縦緩和と横緩和を区別しないという近似を導入して、解析解の導出を試みた。この近似は高磁場MRIでは成立しえないが、本研究課題では低磁場あるいは超低磁場MRIでの計測を目的としており、合理性がある。この条件下で解の導出を行ったが、特殊解が判明していないと一般解を導出できないRicatti方程式に行き当たり、これを近似する方法を模索している。一方で、この検討の過程で従来無視していたT1緩和の影響を考慮する方策を想起できたため、検証したところ低周波では以前課題はあるものの、解析課の精度を向上することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、回転波近似を用いない解析解の導出に努めつつ、数値計算を併用しながら現在広く用いられているスピンロックシーケンスの計測可能な周波数領域の同定を行う。今までの検討によれば、計測感度と、スピンロック周波数及びスピンロック時間の関係により計測可能な周波数領域の決定に影響を与えている。ただし、スピンロック時間については磁化の緩和を考慮する必要があるため、対象の組織、例えば大脳皮質などのT1、T2の値を踏まえて検討を進める必要があるため、これらの計測も行う予定である。ただし、検討の対象である低磁場MRIではSN比の関係から空間分解能に制約があるため、最悪の場合ボクセル平均値として扱う必要があることを留意せねばならない。 この検討に加えて、提案予定の自己共振型スピンロックシーケンスの有用性の検討を進める。緩和の影響から従来のスピンロックシーケンスでは低周波の磁場を計測するのが困難である可能性があり、これを克服する1つの方策として検討する。これは周波数あるいは位相変調を用いて、神経磁場がない場合でも擬似的に自己共振状態を生成し、ここに外乱として神経磁場が介入することで、コントラスト変化を得る試みである。これに関して、まず解析解を用いて画像シミュレーションを行い、ファントム撮像を通じて有効性の検証を行っていく予定である。 以上の検討を通じて、ヒト脳におけるα波あるいはそれ以下の周波数帯域の活動をスピンロックシーケンスを用いて計測可能であることを調査し、検討を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度において理論計算が主たる検討内容となり、スピンロックシーケンスにおけるスピンロックパルスの印加時間を長時間化するためのコイルセットに関する検討が遅延したことが1つの要因である。また応募していた国際学会で演題が採択されず旅費が余剰した点も要因である。 次年度は理論検討におおよその目途が立ってきたため、コイルセット及びヒト計測のための刺激提示装置の購入などを充填し、本研究課題の有効性検証実験のために執行する予定である。
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