研究課題
前シナプスタンパク質αSynucleinの凝集・線維化は神経変性をもたらし、パーキンソン病(PD)が発症すると考えられる。αSynucleinはシナプス小胞膜に結合し、シナプス開口分泌に関与する。しかし、αSynucleinがシナプス小胞膜から乖離すると、タンパク質が天然変性型となり、凝集・線維化のリスクが高まることが示唆されている。シナプス小胞膜からの乖離の原因としては、αSynuclein自身のミスセンス変異の他にシナプス小胞膜の脂質組成の変化が挙げられる。遺伝学的に脂質関連酵素がPDの原因遺伝子・リスク遺伝子となっていることも、脂質組成変化がαSynuclein凝集化に関与するという仮説を支持する。本研究は、αSynucleinの凝集・線維化リスクを高める脂質分子種とその責任酵素を明らかにすることを目的とした。脂質関連PD原因遺伝子であるVPS13CとPLA2G6は、機能喪失変異により顕著なαSynucleinの凝集形成を伴う。本研究ではVPS13CおよびPLA2G6欠損ショウジョウバエを用いたオミックス解析とαSynuclein伝搬モデルヒト培養細胞およびショウジョウバエ・iPS細胞を組み合わせ、凝集リスクとなる脂質分子種と責任脂質酵素の同定を試みる。今年度は、ショウジョウバエモデルを用いたオミックス解析と遺伝学的スクリーニングにより絞り込んだ脂肪滴関連酵素に関して、ヒト培養細胞、マウス伝播モデルでの評価を中心に進めた。
2: おおむね順調に進展している
αSynuclein-EGFPを安定的に発現する293細胞およびHeLa細胞を用いたαSynuclein伝播モデルにて、スクリーニングで得られた脂肪滴関連酵素に対する既存の阻害剤とRNA干渉を用いて、αSynuclein凝集化の抑制効果を評価した。さらに、脂肪滴形成を調節するため、異なった鎖長の脂肪酸添加による影響も評価した。脂肪滴関連酵素阻害剤のαSynuclein凝集への影響をin vivoで評価するため、αSynuclein伝播マウスモデルに阻害剤を毎日経鼻投与し、現在、阻害剤の効果の組織化学的評価を進めている。既存の脂肪滴関連酵素阻害剤は半減期が短く創薬シーズとして実用的でないため、脂肪滴関連酵素の活性をルシフェラーゼ活性でモニターできる細胞培養系を樹立し、阻害剤スクリーニング系の準備が完了した。VPS13CおよびPLA2G6ノックアウトHeLa細胞において、αSynuclein凝集化の促進を確認し、次にVPS13CおよびPLA2G6変異PD患者由来iPS細胞から樹立した神経において、脂肪滴形成とαSynuclein凝集化との関係を評価中である。VPS13CおよびPLA2G6欠損ショウジョウバエでは顕著なαSynuclein凝集化が認められ、さらに異所性の脂肪滴形成が神経とグリア両方で見られた。野生型ショウジョウバエの神経では脂肪滴形成はほとんど観察されないことから、神経での異所性の脂肪滴形成がαSynuclein凝集化に関与する可能性が示唆された。
αSynuclein伝播マウスモデルでの実験は、動物実験のセットアップとαSynuclein線維を線条体に注入する術式の習得の都合により開始が遅れていた。今後、阻害剤の効果を免疫組織化学的に評価する。脂肪滴関連酵素阻害剤のin vivoでのαSynuclein凝集抑制効果の確認後、培養細胞データとともに論文としてまとめる予定である。一方、ルシフェラーゼ活性を利用した脂肪滴関連酵素阻害剤のスクリーニング系は、頑強性に関する基礎データを集めた後、特許申請とともに、FDA承認化合物ライブラリーのスクリーニングを実施する予定である。
マウスモデルを用いた評価に係る技術習得が遅れたため、2024年度での使用額が生じた。マウスの飼育費用、免疫組織化学的評価に用いる試薬類およびルシフェラーゼ活性を利用した脂肪滴関連酵素阻害剤のスクリーニング系で用いるFDA承認化合物ライブラリーの購入で使用予定である。
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