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2023 年度 実施状況報告書

ファージ製剤の腸管内へのデリバリーシステムの構築

研究課題

研究課題/領域番号 22K15673
研究機関自治医科大学

研究代表者

島守 祐月  自治医科大学, 医学部, ポスト・ドクター (40816873)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードファージセラピー / バクテリオファージ / 腸内細菌叢
研究実績の概要

病原菌により健常な腸内細菌叢が撹乱されることで、消化器疾患だけでなく糖尿病やがんなどの様々な疾病を引き起こすことが知られている。しかしながら、抗生物質は標的とする病原菌のみならず共生細菌まで殺菌してしまうこと、更には薬剤耐性菌の出現など、様々な問題がある。そこで本研究では、標的細菌を宿主とするバクテリオファージ(ファージ)を用い、標的細菌のみを殺菌することで厳密に腸内細菌叢を制御することを目的としている。申請者はこれまでに、標的細菌に感染し溶菌するファージを附属病院由来の下水より単離した。更に、異なる株にもファージを応用可能とするために、複数の臨床分離株に感染し溶菌する広域宿主域を有するファージを取得した。また、標的細菌と単離ファージの共培養では、薬剤耐性菌同様にファージ耐性菌も出現することを確認している。そこで、ファージ耐性菌に感染可能なファージを新たに取得することで、ファージ耐性菌の増殖を抑制することが可能となった。この結果より、複数種のファージを混合(カクテル化)し適応することで、標的細菌の持続的な制御ができることが期待される。
腸内細菌は多くの細菌属腫から構成されているため、これらに影響を与えることなく標的細菌のみを除去することが必要である。そこで、健常マウス糞便由来の細菌群を健常腸内細菌叢と仮定し、マウス糞便懸濁液に標的細菌を一定割合で混合させた懸濁液にファージを添加させた。その結果、標的菌体辺りのファージ数が多くなるにつれて、標的細菌が減少することを示した。次に、SPFマウスを用いて標的細菌の経口投与を行い、糞便中の標的細菌を指標とし腸内に定着していることを確認した後、ファージ溶液の経口投与を行った。ファージ溶液の投与群は、投与後の標的細菌数が投与前と比較して有意に減少しており、ファージによる標的細菌制御の可能性が明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

これまでに、標的細菌に感染する溶菌ファージを複数種類、単離している。これらのファージは、in vitroの純粋系のみならず、マウス糞便由来の腸内細菌叢存在下においても、標的細菌に感染し溶菌することが可能であった。そこで、標的細菌を経口投与したSPFマウスにおいて、ファージ溶液の経口投与を行った。In vitro実験で顕著な減少が見られた条件、すなわち標的細菌1個あたりのファージ数(MOI)を1000個にした条件において、ファージ投与1日後のマウス糞便中の標的細菌数が有意に減少した。一方、緩衝液を投与した対照群では標的細菌数が投与前と大きく変化しなかったことから、マウスの免疫反応によるものではなく、ファージ投与によって標的細菌が減少したと考えられる。また、マウス糞便由来ゲノムの16S rRNA遺伝子解析の結果、ファージの投与前後で他の細菌叢の大きな変化は見られなかった。
しかしながら、通常、経口投与の場合は口から食道を通り、胃を通過して消化管に到達するはずである。その場合、胃酸や消化液の影響あるいは、腸管壁や消化物などへの非特異的吸着によるファージ濃度の低下も考えられる。In vitro実験では、本研究で用いたファージはpH5以下では大きく濃度が低下した。
本研究の目的は腸管へのデリバリーシステムの構築であるが、MOIを高く設定したためファージ溶液でも標的細菌を減少させる結果が得られている。また、経口投与の際に用いたゾンデの長さは65 mmと比較的長かったため、マウスのサイズでは胃酸の影響を受けることなく消化管に近い位置に投与できた可能性がある。MOIが低い条件では、ファージ溶液自身では効果が見られず、ファージをアルギン酸ビーズ内へ固定化やリポソームへ封入した場合のみに効果があるかどうかはまだ調べておらず、in vitroおよびin vivo実験での検討が必要であると考えている。

今後の研究の推進方策

現在は、溶菌ファージ溶液をそのまま用いて殺菌性を評価している。しかしながら、本申請課題の内容である、最適なデリバリーシステムであるかどうかは不明である。現状、in vivo実験ではマウス以外の動物を用いることは難しい。また、マウスでのin vivo実験におけるビーズ径あるいはリポソームの種類の最適条件が一般性を持つかどうかの検証も必要である。そのため、まずはin vitro実験において、胃内を模擬した条件を設定し、ヒトへの応用も考慮した評価系を確立する。
また、これまでは野生型ファージを用いているため、腸内において、標的細菌の殺菌と同時にファージの増殖も起こっている可能性がある。一方、非増殖性の抗菌カプシド(野生型ファージの感染性、殺菌性は維持しつつ、ゲノムのパッケージング能を欠損させたもの)においても同様の評価が必要であると考えている。具体的には、低pH環境下での安定性や腸内細菌叢内の標的細菌の殺菌が可能であるかの評価を想定している。低pH環境下で顕著なファージや抗菌カプシドの活性低下が見られた場合、アルギン酸ビーズによる固定化やリポソーム内への封入などを検討する予定である。

次年度使用額が生じた理由

当該年度において、ファージの単離や条件検討等などのin vitroでの実験に時間がかかり、想定していたよりも動物実験の回数が少なかったため、予定していた使用額が少なくなった。当該年度に行った実験結果を元に、次年度ではさらに動物実験を中心に行う予定である。また、国際学会への参加、論文投稿など研究成果を発表する場に予算を使用する予定である。

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公開日: 2024-12-25  

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