研究実績の概要 |
本研究は、どのような体内環境下で膵脂肪が糖尿病を中心とする生活習慣病の危険因子となるのかを人種差も含めて明らかにし、医療画像を用いた生活習慣病予防のための個別化医療に寄与することを目標としている。本年度、膵脂肪と糖尿病の関連が、膵体積によって変わるのかを人種差も含めて検討するために、日本における健診のCTデータと英国における前向きコホート研究UK BiobankのMRIデータをもとに解析を進めた。また糖尿病以外の生活習慣病として膵臓癌に着目し、膵脂肪が膵臓癌の危険因子となることを、UK Biobankと国際的な膵臓癌のコンソーシアムであるPanScan/PanC4のデータを用いて示し、米国膵臓学会で発表するとともに、英文誌に報告した。 膵脂肪と膵臓癌発症の関連を評価するために、UK Biobankのデータを用いて、MRIで膵脂肪量を測定された29,463人を解析対象とした。膵脂肪が平均値以上蓄積している群を高膵脂肪群、平均値未満の群を低膵脂肪群とした。約4.5年の観察期間で高膵脂肪群では0.28%、低膵脂肪群では0.07%が膵臓癌を発症し、観察開始時の膵脂肪蓄積は膵臓癌発症の増加と関連していた。さらにこの因果関係を検証するために、UK Biobank (25,617人)とPanScan/PanC4(膵臓癌8,275人、非膵臓癌6,723人)の遺伝的多型のサマリーデータを用いたメンデルのランダム化研究を行い、膵脂肪蓄積と膵臓癌の因果的関連を示した。 本研究結果は膵脂肪蓄積が膵臓癌の一因であることを示唆しており、膵脂肪の低減が膵臓癌のリスク低下に有効な可能性がある。膵臓癌の危険因子として膵脂肪蓄積を評価することの重要性を示した本研究結果は、医療画像を用いた生活習慣病予防のための個別化医療の基礎を与えるものである。
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