研究課題
以前に行った、がんにおける比較的小さな尿中遊離糖鎖の変化に関する研究に引き続いて、より大きな構造の糖鎖に着目した腫瘍マーカー候補の探索を進めた。これまでに、健常者においてごく微量あるいは検出限界以下のシアリル化された多分枝(3, 4本鎖)糖鎖が、がん患者において増加傾向を示すことを確認している。基本的な多分枝糖鎖に関しては、酵素・化学修飾処理により分枝とシアル酸の結合様式まで解析を進められている。一方、分枝に加えて末端部に伸長構造を有すると推定される糖鎖も検出されているが、現状は質量による組成のみが判明している。また、分析手法の改良に関する検討も行った。収率評価のための内部標準として添加するための糖鎖として、天然にはほぼ存在しないと考えられる単糖残基を部分構造として組み込み、かつ天然糖鎖と性質が類似した合成オリゴ糖を設計した。さらに、微量な糖鎖のLC/MS検出安定性を高めるための感度の向上実験も行った。結果として、水リッチな逆相HPLC/MS(/MS)において、元の流速と同程度の揮発性有機溶媒または元の流速の0.2~2%程度の揮発性弱酸をポストカラム添加することにより、カラムにおける糖鎖分離に影響を与えずにポジティブモードにおける糖鎖の感度を1.5~2.5倍程度増加させることができた。これによりスプレーの安定性も増したためMS/MS定量測定値の再現性も向上した。一方で、特にシアル酸残基を4つ以上有する糖鎖およびリン酸基を有する酸性糖鎖は、精製度を高めるための複数回のHPLC分離を行うと収率が大きく低下することを確認している。これらの糖鎖はHPLCのカラム・配管に金属イオン不純物を介して吸着しやすいとされ、これによりクロマトグラムのピーク形状が悪くなりやすく(感度が低い・キャリーオーバーしやすい)、したがって定量分析を進めていくうえで改善すべき課題と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
がん患者の尿において特異的な増加傾向を示す、微量糖鎖を検出することができた。また、糖鎖の収率評価のための内部標準オリゴ糖の準備、LC/MS測定の感度の向上など、今後の検体間比較測定のための条件の検討を進めることができた。
一部の酸性糖鎖のHPLCシステムにおける吸着と考えられるピーク形状の悪化を含む問題については、これまでに報告されているリン酸化ペプチド、ヌクレオチドなどの吸着への対処法を基に改善を行う。改良された分析条件を用いて、より多くの検体の糖鎖の測定・比較を進めていく。質量分析法による測定は、三連四重極型装置による選択反応モニタリング(SRM)および/または四重極-Orbitrap型装置による並列反応モニタリング(PRM)によって行う。
当初の実施計画では、糖鎖の抽出精製・標識関連試薬、HPLCカラムおよび質量分析装置のイオンソース関連部品などの消耗品に使用される予定であったが、予備的な実験が多くこれらの消耗品の使用量が少なくなった。次年度ではより多くの消耗品が必要となることが予測されるため、繰り越しとした。
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PLoS One
巻: 17 ページ: e0266927
10.1371/journal.pone.0266927