脳内にタウが異常蓄積する疾患をタウオパチーという。アルツハイマー病(AD)や進行性核上性麻痺(PSP)をはじめとして複数のタウオパチーが存在するが、それぞれ臨床像が異なる。ADがβ-アミロイド(Aβ)に誘発されたタウの細胞外分泌の増加・伝播、蓄積が主たる病態とされる一方で,PSPではタウ病理の進行がAβ病理に依存していない。また,優位に蓄積するタウの分子種が異なる。これまでAβやタウの生理的な産生・分泌は神経活動に依存していることが示されている。この神経細胞興奮,Aβ産生,タウ細胞外分泌の3つの病態の相互関係はAβに依存性のADと非ADタウオパチーにおいて,異なっていることが示唆される。本研究ではこの点について、神経系培養細胞を用いて検証した。①Aβはアミロイド前駆体蛋白(APP)からβ及びγ切断によって産生されるが,グルタミン酸(Glu)濃度に依存してこのAPP processingが変化し,低濃度Gluではβ切断が亢進しAβ産生が増加する一方で,高濃度Gluではこれが抑制されることを示した。次に,②細胞外へのタウ分泌がAβ量に依存することをAPP遺伝子導入及びAPP processingのγ切断抑制の実験系の両者で示した。更に,③非ADタウオパチーを想定し、変異型タウ遺伝子を導入した実験系を構築し、APP processingの挙動を検証した。変異型タウ遺伝子の導入によりAPPのβ切断が抑制されていることが示唆された。本研究における結果より,APP processingがAD,非ADタウオパチーの病態において異なっていることが推測された。今後の展開として,②及び③の検証において複数のタウアイソフォームによるAPP processingの変化に着目し、神経細胞興奮による挙動やタウの分泌を検証することがタウオパチーの病態の違いの把握に重要と考えられる。
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