研究課題
2021年4月から現在までに,合計41例の本態性振戦,ジストニア性振戦,パーキンソン病患者の研究への組み入れ,術前評価を行った.振戦重症度評価 (Fahn-Tolosa-Marin tremor rating scale, TRS)およびQOL評価尺度 (Quality of life in essential tremor questionnaire, QUEST; EuroQol) に加え,脳機能画像 (安静時機能的MRI)・拡散テンソル画像の撮像,加速度計および表面筋電図を用いた評価も行った.術前データの中でも特に加速度計データに着目し,本態性振戦およびジストニア性振戦の加速度計評価による特徴抽出を試みるとともに,加速度計の診断マーカーとなる可能性について,学会報告を行った.姿勢時振戦および動作時振戦の周波数は本態性振戦群でジストニア性振戦群よりも有意に大きかった.さらに,姿勢性振戦と運動性振戦の振幅の大きさの非対称性がジストニア性振戦群で有意に大きい結果であり,両疾患の鑑別に有用である可能性が示唆された.現在は論文化を目指し,症例のさらなる蓄積を行っている.また,集束超音波療法を施行した患者においては,名古屋大学および協力病院における術後の定期評価を行っている.データが蓄積されれば,術前後での比較が可能となる.術前後の比較により,(1) FUSの振戦および生活の質を改善する臨床効果を明らかにする,(2) 相互比較を通したパーキンソン病・本態性振戦・ジストニア性振戦における振戦に関連する脳ネットワークの共通点・相違点を安静時機能的MRIを用いて明らかにする,ことが期待される.研究は概ね計画通りに推移している.
2: おおむね順調に進展している
以下の通り,本研究から得られたデータのうち,特に加速度計データについてまとめた成果を国内外の学会にて発表した.本態性振戦15例,ジストニア性振戦20例の比較から,姿勢時振戦のFrequency width half magnitudeは本態性振戦群 0.6 ± 0.2,ジストニア性振戦群 1.3 ± 1.3(p=0.004),運動時振戦のTremor stability indexは本態性振戦群 0.0 ± 0.0,ジストニア性振戦群 0.6 ± 1.2(p=0.024)といずれもジストニア性振戦で高く,ジストニア性振戦群で振戦のリズムがより不規則であることが示唆された.今回の検討結果から,加速度計を用いた解析によって,両疾患の振戦の相違点を抽出可能であることが分かった.特に,Frequency width half magnitudeとTremor stability indexはいずれも振戦のリズムの規則性の程度を表すパラメータであるが,我々の対象群においてもETとDTの振戦のリズムの規則性の相違を検出できるパラメータであることが示唆された.今後は,既存のパラメータの組み合わせや新規パラメータの開発を通して,ETやDTの客観的な診断や重症度評価のマーカーとして確立すること,英語論文発表を目指している.また,術後の臨床データ,MRIデータなどの取得も順調に経過しており,データが蓄積されれば,これらを対象とした解析も可能となる見込みである.
本態性振戦およびジストニア性振戦の集束超音波療法の術前の加速度計データを用いた検討結果については,さらに症例数を蓄積した上で,2023年度中の英語論文化を目指している.また,名古屋大学および協力病院において,術後1年の臨床データおよびMRIデータの収集を予定通り進めていく.これにより,(1) FUSの振戦および生活の質に対する臨床効果,(2) パーキンソン病・本態性振戦・ジストニア性振戦における振戦に関連する脳ネットワークの相違を明らかにすることを目指す.なお,本年度のMRI撮影件数の実績および次年度のMRI撮影予定件数の見込みから,次年度使用額が生じた.
(理由)令和4年度にデータ解析用ソフトウェアの購入を予定していたが、別の研究で賄うことができた。(計画)令和5年度には術前や術後の研究目的のMRI撮影などの評価を進めていく予定であり,そのための機器利用料に充当する.
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