研究課題
名古屋大学脳とこころの研究センターでは、2014年より健常コホート研究を実施し、健常者の頭部MRIの撮像、認知機能検査、血液採取を行っている。本研究では、健常コホート研究の保存血漿を用いてアルツハイマー型認知症の血液バイオマーカーの測定し、背景因子やMRI画像の解析と組み合わせ、認知機能の維持に関連する特徴を見いだすことを目標としている。対象者はコホート研究の初回評価時年齢が60歳以上で、血液採取に同意した参加者381例で、このうち経時的フォローを行い3回以上の認知機能データやMRI画像データを有する212例を優先してバイオマーカーを測定した。測定するバイオマーカーとして、血液中のアミロイドβ(Aβ)とタウ(tau)を予定しているが、令和4年度はAβの測定を行った。免疫沈降-質量分析(IP-MS)法を用いて血液中のAβ関連ペプチドを測定し、こられの比を組み合わせてComposite biomarkerを測定することで、Aβバイオマーカーの結果を得た。対象者全体の約22%でComposite biomarkerが上昇しており、血液Aβバイオマーカーは陽性であると考えられた。また、対象者全体の約18%において、血液Aβバイオマーカーが陽性でありながらも、同一時点での認知機能が正常範囲であったことがわかった。さらに経時的なMRIデータを用いて、バイオマーカーと脳容積変化との関連を検討した。バイオマーカーと関連して脳容積減少が加速した領域に、後部帯状回、楔前部、海馬傍回など、アルツハイマー型認知症と関連する領域が含まれることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
測定を予定したバイオマーカーのうち、令和4年度はAβを測定し、MRIの解析に着手した。また、一部の対象者でMRIと認知機能のフォローアップを開始した。現時点では、Aβ以外のバイオマーカーが未測定であるが、Tauの測定はアルツハイマー病理の是非やアルツハイマー病理の進行状況の予測に不可欠であり、令和5年度に測定する。本研究では、認知予備能を有する群における画像特徴を見いだすことを目標のひとつとしている。T1強調画像を用いたMRI解析から得られたAβ陽性例の画像特徴は、アルツハイマー型認知症で異常を認めやすい領域と類似した分布であった。令和5年度は、拡散強調画像や安静時脳機能MRI画像用いて、認知予備能を有する場合の画像特徴の検討を継続する。以上の通り、Tauの測定は実施できていないが、測定したバイオマーカーは結果が得られ、これに基づいて画像解析に着手できていることから、おおむね順調に進展していると考える。
令和5年度は、血液バイオマーカーのうち、令和4年度に測定できなかったTauの測定を行う。測定は、Quanterix社のp-tau181 (version2) kitと他社の抗体を組み合わせたアッセイ系を立ち上げて比較を行う。AβとTauの結果によりAD病理の有無を推定し、AD病理を有しながらも認知機能が保たれる群(AD+CR+群)を抽出する。認知機能の評価は、健常コホート研究で取得したrevised Addenbrooke's Cognitive Examination(ACE-R)の得点を用いる。画像解析については、令和4年度はAβと関連する脳萎縮の進行について検討した。令和5年度も引き続きT1強調画像を用いた解析により、認知予備能を有する群の構造的画像特徴を検討する。さらに、安静時fMRI画像を用いて独立成分分析やグラフ解析を実施し、ネットワーク変化の特徴を定量化しAD+CR+群における代償性の安静時脳機能ネットワーク変化を明らかにする。以上の結果をとりまとめ、認知予備能にかかわる構造的機能的画像特徴について得られた知見を報告する。
測定を予定した血液バイオマーカーのうち、2022年度に依頼できなかった項目および、MRIを撮像できなかった被験者の撮影を2023年度に繰越して実施することにしたため。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
老年精神医学雑誌
巻: 33 ページ: 1079-1088
Neuroimage
巻: 15 ページ: -
10.1016/j.neuroimage.2022.119263