研究課題/領域番号 |
22K15785
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
廣瀬 直毅 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任助教(常勤) (90830167)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝子発現ノイズ / tnQTL / eQTL / 発現ノイズの量的形質遺伝子座 / ドパミン作動性ニューロン / セロトニン作動性ニューロン / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
【成果の具体的内容】 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)からドパミン作動性ニューロンへの分化誘導過程で得られた、既報の単一細胞RNA-seq(215人分)と全遺伝子型(156人分)のデータセットを解析した。データセットに含まれていたドパミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、上衣細胞様細胞、アストロサイト様細胞、底板前駆細胞様細胞それぞれについて、遺伝子の発現ノイズと発現平均値に影響する量的形質遺伝子座をそれぞれ網羅的に決定した(tnQTL、2万以上;eQTL、80万以上)。約80%のtnQTLにはeQTLの性質もあった。eQTLと同様に、tnQTLは遺伝子発現のシス制御領域(プロモーターやエンハンサー)に有意に濃縮していた。統合失調症のゲノムワイド関連解析によって同定された一塩基多型がtnQTLに濃縮される傾向を認めたが、有意水準(0.05)を満たさなかった。一方、既報と同様に、統合失調症のゲノムワイド関連解析によって同定された一塩基多型は、eQTLに有意に濃縮していた。 【成果の意義・重要性】 発現ノイズに影響を与える遺伝子座(tnQTL)を同定できたのは、今回の研究が初めてである。この成果により、発現ノイズの生成メカニズムについて今後詳しく調べられる。また、tnQTLに統合失調症に関わる一塩基多型が濃縮される傾向は、tnQTLが統合失調症の遺伝的リスクに寄与する可能性を示唆する。今後、検索する精神疾患の対象を拡大し、統合失調症などの精神疾患の遺伝的リスクを発現ノイズという視点から検索することによって、精神疾患の病態をさらに深く理解できると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに研究が進展し、細胞種ごとに発現ノイズの量的形質遺伝子座(tnQTL)を網羅的に同定できた。また、tnQTLが遺伝子発現のシス制御領域に濃縮していることを確かめられた。くわえて、tnQTLが統合失調症の遺伝的リスクに関わる可能性を見いだせた。現在、tnQTLに結合する転写因子の同定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、tnQTLと精神疾患の関連を追究し、in vitro実験によってtnQTLを検証する。 統合失調症のゲノムワイド関連解析によって同定された一塩基多型は、tnQTLに濃縮される傾向を認めたものの有意水準を満たさなかった。これは、同定できたtnQTLの数が少なかったためである可能性がある。そこで、今回同定したeQTLをtnQTLと同数までランダムにダウン・サンプリングして、ダウン・サンプリングの前後における濃縮率とP値の変化を調べる。 また、2022年10月に、統合失調症患者と比較対照群の背外側前頭前野を使った単一核RNA-seqデータ解析の研究成果が報告された。この既報データを本研究に取り入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表の場を国内のみに留めたこともあり、旅費の支出が予定を大きく下回った。翌年度分として請求した助成金と合わせて、実験に使う物品の購入に充てる予定である。また、COVID-19の状況を鑑みながら、国際学会発表のために海外出張することも検討する。
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