研究課題/領域番号 |
22K15831
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
楠本 多聞 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 計測・線量評価部, 主任研究員 (90825499)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 標的アイソトープ治療 / 蛍光飛跡検出器 |
研究実績の概要 |
放射線がん治療は、放射線が引き起こす電離作用によってがん細胞ののDNAに損傷を与え、死滅させる治療法である。治療が難しいとされる播種性の転移がんに有効な治療法として標的アイソトープ治療が挙げられる。この治療法は放射性同位元素で標識した抗体などをがん細胞に送り届け、内照射によってがん細胞を死滅させるというものである。α線放出核種を用いた標的アイソトープ治療はα線の高い線エネルギー付与による優れた細胞致死効果が期待できることに加えて、細胞内での飛程が短く周囲の正常組織への影響を抑制できるという利点もある。しかしながら、α線の線量評価方法が確立されていないこと及び細胞の生存率曲線が取得されていないことから、X線や粒子線を使用した外照射による治療と同じ基準でその治療効果を定量的に比較することができていない。そこで、本研究では蛍光飛跡検出器を使用したα線の線量評価手法を確立するとともに、ヒトすい臓がん細胞(MIA Paca-2)にHER2たんぱくを発現させるための遺伝子組み換えを行い、生存率曲線の取得する。この際、蛍光飛跡検出器を細胞皿とし、蛍光顕微鏡を用いて細胞と飛跡の観察を同時に行う。 蛍光飛跡検出器を用いた線量評価手法に関して、撮像速度が従来の共焦点顕微鏡よりも速い蛍光顕微鏡を用いて行う。Am-241線源を用いた照射に加えて、炭素線及び鉄線を照射したサンプルの観察を行い、飛跡を観察可能であることを確認した。 加えて、MIA Paca-2へのHER2タンパクを発現するための遺伝子のトランスフェクションを開始しており、生成したコロニーから細胞をセレクションしている。細胞が完成次第X線及び外照射によるヘリウム線の照射を実施するとともにα線放出核種を利用した実験も開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核となるのは、Tetリプレッサーのon/offによりHER2タンパクを発現するMIA Paca-2細胞の作成である。研究初年度はERBB2遺伝子に対して遺伝子組み換えを実施した。作成した遺伝子は電気泳動及びDNAシークエンスによって目的のものであるかどうかを確認した。その後、作成した遺伝子をMIA Paca-2にトランスフェクションした。作成した細胞がTetリプレッサーを発現することをウエスタンブロッティング法により確認した。現在、遺伝子組み換えを行ったERBB2遺伝子のトランスフェクションを実施している。ERBB2遺伝子の発現(つまりHER2タンパクの発現)をウエスタンブロッティング法によって確認し、照射実験へと移る。当初の計画ではERBB2への遺伝子組み換えに1年程度必要であると見積もっていた。初年度に遺伝子組み換えを完了することができ、細胞へのトランスフェクションを開始していることから順調に進展していると考えている。 また、蛍光飛跡検出器を用いた線量評価に関しては、既存の蛍光顕微鏡に対してLED光源をアップデートし、測定系を再構築した。これによって、α線の飛跡が観察可能となった。記録されたα線の飛跡をカウントし、それぞれの蛍光強度を評価することで、α線の線量を評価することが可能となる。α線の飛跡の観察に最適な条件の検討に1年程度必要であると研究開始時点で考えており、研究初年度にこれを達成できたことから、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度にTetリプレッサーを発現するMIA Paca-2細胞は完成した。現在、遺伝子組み換えを行ったERBB2遺伝子のトランスフェクションを行っており、生成したコロニーから増やした細胞の中からHER2タンパクの発現状態の良い細胞をウエスタンブロッティング法によって選抜する。その後、作成した細胞及び遺伝子組み換えを行っていないMIA Paca-2細胞に対して、基準放射線であるX線の照射を実施し、細胞の放射線応答の違いを確認する。その後、6 MeVのヘリウム線の照射を実施、外照射による細胞の生存率曲線を取得する。並行してα線放出核種(At-211もしくはAc-225)を用いた照射実験も実施し、内照射による生存率曲線も評価する。外照射による生存率曲線と内照射によるそれを比較することで標的アイソトープ治療の治療効果を定量的に確認する。 また、Am-241線源から放出されるα線を照射した蛍光飛跡検出器に記録された飛跡の個数、その蛍光強度及び飛跡の長さから線量の評価をおこなっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、対面式の学会への参加を見送った。そのため、旅費に余裕が生じた。今年度は新型コロナウイルスの5類引き下げが予定されていることから、対面式の国内学会がこれまで通り開催される予定である。これらへの参加を予定しており、そのための旅費に使用する計画である。
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