研究課題/領域番号 |
22K15863
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 将隆 名古屋大学, 医学系研究科, 病院助教 (40724844)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 動脈硬化 / 腹部大動脈 / 動脈瘤 / 4D Flow |
研究実績の概要 |
腹部大動脈瘤(AAA)の発生・増悪に寄与する特徴的な血行力学的な因子について調査するため、AAA患者群と大動脈が拡張していないコントロール群に対して4D-Flowを撮影し、血行動態の解析を行った。解析の結果、腹部大動脈の特徴的な血行動態として、収縮末期から拡張初期の間の腸骨動脈からの反射波と考えられる逆流成分が検出された。またこれらの逆流成分が腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈などの腹部臓器動脈に吸収され、腹腔動脈上の大動脈では反射成分が乏しいことが分かった。また、非拡張の腹部大動脈内では層流が比較的支配的であったのに対して、拡張した腹部大動脈内には渦度・らせん度の高い流れが生じていることが分かった。これらの血行動態が動脈壁にかかる力学的な統一性を撹乱し、内皮の脆弱化を生じ動脈硬化性変化を進行させている可能性がある。 AAAに対するステントグラフト留置(EVAR)の前後では、瘤により変形・膨張した血管形状がステントで修復される。これにより血流経路の不整な形状が改善し、渦流などの血流のenergy lossを生じうる血行動態が減少し、血流エネルギーの損失が減少すると考えられた。このため、数例と限定的だがAAAの患者のEVAR前後で4D-Flowを撮影し、energy lossの計算・比較を行った。結果としてEVAR後では腹部大動脈のenergy lossが上昇している可能性が示唆された。ただし、この結果は以前浜松医科大学で同様の撮影をした際にEVAR後にenergy lossが低下したのとは対照的な結果である。この事象については引きつづきデータ収集、解析と考察を要する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年ではAAA患者群、非拡張腹部大動脈のコントロール群の4D-Flowデータの蓄積を得られたため、患者群とコントロール群の血行動態の比較を行うことができた。また限定的だがAAA患者のEVAR前後での4D-Flowデータを収集、血流エネルギー損失に関わる解析を行うことができた。しかし、研究代表者の病気による長期休暇が長引き、AAA患者の4D-Flowデータの収集が滞ってしまっている。 計画されていたファントーム実験については、所属する研究室の他の研究員の協力でAAAモデルのファントームが作成され、ステント挿入前後を含めた4D-Flowが撮影が行われた。今後研究室のメンバーとともに解析を進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
AAAの特徴的な血行動態を探索するにあたり、AAAに対するEVAR前後に4D-Flowを撮像、血流エネルギー損失の差を計算したが、名古屋大学と共同研究機関である浜松医科大学では相反する結果が出ている。具体的にはエネルギー損失は名古屋大学症例で増加、浜松医科大学症例で低下となった。血行動態の正確な解析・検証のために、これらの事象についてさらなる研究を要する。現在は限定的な症例数に留まる、名古屋大学のAAA患者の4D-Flowデータについては収集を引き続き進めていく予定である。AAAモデルとステントグラフト挿入前後のファントームスタディは所属研究室で施行されたため、今後はこのデータの解析を進め、可能であれば浜松医科大学等協力施設でのファントームスタディも施行し、比較を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主な要因は研究代表者が病気のため一年五ヶ月にわたる休暇を要したことによる研究の遅れである。 所属施設でのファントームスタディは行われたが、協力施設でのスタディはまだ行われていない。またAAA患者のEVAR前後の4D-Flowデータについては症例数が限定的で、収集を引き続き進める必要がある。 ファントムスタディに伴う撮影機器の使用料と人材にかかる費用、解析に関わるハードウェア・ソフトウェアの費用が必要となる。
|