研究実績の概要 |
リボソームストレス応答機構は、がん抑制因子P53を制御する新たな機構として注目されている。Actinomycin D等の薬剤は、核小体内で起こるリボソーム構築過程を障害する。このようなストレスは、リボソームタンパク質L11(RPL11)を核小体から遊離させ、遊離したRPL11は核小体外に存在するMDM2と結合し、その機能を阻害する。その結果p53の安定化により、腫瘍細胞の増殖を抑制するリボソームストレス応答が誘導される。これまでに、リボソームストレス応答が腫瘍化進展の抑制に関与することは、主に成人の固形腫瘍や小児白血病で明らかになっていたものの、小児の固形腫瘍での役割や、抗がん剤治療感受性については、多くが不明であった。そこで本研究ではまず、小児固形腫瘍のトポイソメラーゼ阻害剤の治療感受性とリボソームストレス応答の関係を検討した。その結果、ellipticine, doxorubicin, etoposide, topotecan,等のトポイソメラーゼ阻害薬で処理すると、リボソームストレス応答に依存性に、横紋筋肉腫及びラブドイド腫瘍細胞等の小児固形腫瘍細胞の増殖が抑制された。次に生化学的な変化をみてみると、これらのトポイソメラーゼ阻害薬は、P53経路因子の発現を増加させ、その増加はリボソームストレス応答に依存性であった。さらに核小体構造を検討したところ、トポイソメラーゼ阻害薬は核小体の構成たんぱく質分子を分散させることが判明し、核小体構造の異常を引き起こすことを見出した。このように本研究によって、トポイソメラーゼ阻害薬が核小体構造を傷害することでリボソームストレス応答を誘起すること、この作用が小児固形腫瘍のトポイソメラーゼ阻害薬の治療効果を制御することが考えられた。今後、小児固形腫瘍の治療感受性を予測する診断技術や、耐性化克服の新たな治療法の開発が期待された。
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