研究課題/領域番号 |
22K15930
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
谷古宇 史芳 東京医科大学, 医学部, 助教 (00817348)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ジスルフィド結合 / ペルオキシダーゼ活性 / プロテアソーム |
研究実績の概要 |
先天性甲状腺機能低下症(CH)は頻度の高い先天性内分泌機能障害として知られているが、 適切な治療介入がなければ精神遅滞を合併し得る。甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)変異はCHをきたす代表的な遺伝型だが、そのメカニズムや脳の発達への影響は明らかにされていない。 我々が報告したTPO変異(以下Cys655Phe)症例においても精神遅滞を認めた。TPO変異による機能低下の要因として、仮説であるがジスルフィド結合の消失によるタンパクの不安定化、ユビキチン化の障害、分子シャペロンを含むERストレスを介する機序等が推測された。TPOのタンパク構造においてシステイン間で成り立つジスルフィド結合がTPOの機能と構造の維持に重要であると考えられるため、ジスルフィド結合消失によるERストレスや分子シャペロンの発生が甲状腺機能低下の病態に関与するかが本研究課題の問いである。 令和4年度にin silico立体構造解析によりTPOにおける12か所のジスルフィド結合を同定し、ジスルフィド結合を構成するシステインをセリンに置換したプラスミドをヒト胎児腎細胞株にトランスフェクションし、各々のペルオキシダーゼ活性を測定し、野生型と比較 しすべての変異型における活性低下を認めた。また既知のTPO変異であるCys655PheとCys825Argにおいて、プロテアソーム阻害薬付加後のタンパク発現量とペルオキシダーゼ活性の測定により、TPOのジスルフィド結合消失による立体構造変化と同時に、プロテアソームの分解がペルオキシダーゼ活性の低下に関与する可能性が示された。 上記の研究成果をまとめ令和5年度に当科で第66回日本甲状腺学会総会で発表し、若手奨励賞を受賞した。また、上記研究結果を論文にまとめ、英文雑誌Thyroidに投稿しacceptされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の以前に報告した変異以外のジスルフィド結合に関与する他のTPO変異における機能低下を細胞実験レベルで示すことで、野生型と比較したTPOの細胞内局在の差異を動物実験を行う前に示したいと考えていた。 令和4年度においてin silico立体構造解析により12か所のジスルフィド結合を同定し、それぞれ置換したプラスミドをヒト胎児腎細胞株にトランスフェクションし、各々のペルオキシダーゼ活性を測定したところ野生型と比較し全ての変異型は70~90%の活性低下を認めた(P<0.01)。さらに細胞実験によりTPO変異ではのジスルフィド結合消失による立体構造変化自体と同時に、プロテアソームによる分解がペルオキシダーゼ活性の低下に関与する可能性をまとめていた。 さらに令和5年度は免疫染色も追加し、WTではTPOが細胞膜でも見られたが、Mutantでは小胞体に留まっていること、更にMG132投与後は, MutantでもTPOが細胞膜で認められることを明らかにした。上記内容の報告を令和5年度の第66回日本甲状腺学会総会で行い、若手奨励賞を受賞した。また、上記研究結果を論文にまとめ、英文雑誌Thyroidに投稿しacceptされた。 令和6年度は上記研究成果を踏まえて、動物実験を行い生体におけるTPOの局在、変異マウスと野生型マウスの脳の発達やTPO機能活性等の比較を行い、経過をまとめ学会報告並びに論文での報告を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた細胞実験においてはほぼ完了し、令和6年度は動物実験に注力して行う方針である。 TPO変異マウスに関しては、natural mutantの報告はあるが、ノックインマウスの報告はない。そこで今回発見した新規TPO変異の655のSNPのノックインマウスをCRISPR/Cas9の技術にて成育医療センター協力のもと作成した。タイピングにてヘテロ変異を確認し、このマウスを掛け合わせてホモ変異マウスを作成した。 ホモ変異マウスにおける甲状腺組織の観察とTSH、FT3,4を測定による甲状腺ホルモン低下を実際に確認していくことが2023年度の指針である。また、ERストレス過多でアポトーシスを誘導されているのか、もともと形成異常を生じているのか検討する必要があると考えている。 マウスの発達途中で甲状腺ホルモンを投与し、ローターロッドテストなどで運動学習能の改善を確認する。その他にもRNA-Seqで各遺伝子の発現量の変化を確認し、Ki69などの染色にて細胞増殖能などを確認したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は細胞実験、免疫染色の追加が主であったこと、国内学会での発表であったため想定より経費が抑えられた。次年度以降は動物実験を並行して行っていくため必要経費も増加が予想されるため、2022、2023年度の未使用額を使用させて頂く。
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