本研究は、後腎形成におけるアンジオテンシンII(AngII)の未解明の制御メカニズムを明らかにすることを目的とする。AngII 1型受容体(AT1R)の下流のシグナル伝達経路は、大きくGタンパク質経路とβアレスチン経路に分類できる。これまでに、この両経路を阻害するAngII受容体拮抗薬(ARB)を投与すると、腎臓の血管などに異常が生じることが示唆されているが、Gタンパク質経路とβアレスチン経路がそれぞれどのような役割を持つかは不明な点が多い。本研究の目的は、後腎発生におけるAngIIの未解明の分子メカニズムを明らかにすることであり、これを通して胎児に影響を与えないRAS阻害剤の開発や胎児期の後腎形成を促す方法の開発の端緒を探ることである。 本研究では、βアレスチン経路薬理学的に抑制し、マウスの後腎形成に及ぼすARBとβアレスチンバイアスアゴニスト(BBA)の効果の違いを比較した。マウスにP1から生理食塩水、ARB(Candesartan)、BBA(TRV027)を連日皮下投与し、P5、10、15に血液、尿、腎組織を回収し経時的に観察した。血液検査ではARB群で有意な腎機能障害を認め、尿検査では尿濃縮力低下を認めた。また、腎病理ではARB群において皮質菲薄化、髄質の委縮、細動脈の血管平滑筋の肥厚などを認めた。免疫染色では尿細管の形成不全を認めた。一方、BBA群と生理食塩水群では、これらの異常を認めなかった。 ARB群では腎組織学的形態異常を伴った腎不全を呈し、さらに、BBA群ではこうした表現型が認められなかったことから、後腎発生におけるAT1R/βアレスチン経路を介したAngIIの作用が重要であることが示唆された。 現在、並行して、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した「後天的細胞種特異的遺伝子ノックアウトマウスモデル」の準備を進めている。
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