多種多様な先天性心疾患は、術後に遺残する肺動脈性肺高血圧症や肺動脈狭窄症により生存率やQuality of lifeが低下する。しかしその発症・進行のメカニズムは明らかにされていない。そこで「肺血流増加や肺動脈狭窄部位において生じる病的高シェアストレスにより内皮間葉転換をきたし、肺動脈の閉塞・狭窄が進行していく」という仮説を証明したい。我々はフローポンプシステムを用いた予備実験において、病的高シェアストレス下でヒト肺動脈内皮細胞は内皮間葉転換をきたし、その機序は転写因子ERGの発現が低下するためであるというデータを得ることに成功した。 培養実験において病的高シェアストレスは、ヒト肺動脈内皮細胞の血管内皮細胞マーカーであるPECAM1やCDH5の発現を低下させ、間葉系マーカーであるACTA2やFSP1の発現を増加させ、内皮間葉転換を示した。また、血管内皮細胞マーカーの遺伝子を発現させる転写因子ERGを低下させ、内皮間葉転換を抑えるBMPR2の発現を低下させた。そこでsiRNAを用いたERGの機能低下実験を行うと、正常シェアストレス下においてPECAM1、CDH5やBMPR2は低下し、ACTA2の発現が増加し、病的高シェアストレス下と同様な現象が起きた。また、レンチウイルスを用いてERGの過剰発現を行ったところ、病的高シェアストレスにおいて、PECAM1、CDH5やBMPR2は増加し、ACTA2の発現は減少し、内皮間葉転換がレスキューされた。 今後は肺血流増加モデルマウスを用いて、肺血管内皮のERGを活性化する治療により肺高血圧の進行を抑えられるか否かを確認することが目的である。本研究により先天性心疾患に伴う肺動脈病変の発症や進行を防ぐ新たな内科的治療薬の開発につなげたい。
|