研究課題/領域番号 |
22K15950
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
八塚 由紀子 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (20458524)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ミトコンドリア病 / スプライシング異常 / ディープイントロニックバリアント / エクソンスキップ / 疑似エクソン |
研究実績の概要 |
ゲノム解析技術が飛躍的に進歩してもなお、エクソンから3塩基以上離れた位置に存在するイントロン領域のバリアントに対してゲノムDNAの配列解析からその影響を予測することは困難であるが、これを解決するために新規フィルタリングを導入し、先行研究で取得した1500超のNGSデータセットを活用した再解析を行った。 具体的には、診断確定済症例も含めた全データセットからバリアントを抽出し(約27,000件)、Ferraro(Science 2020)らの見出した配列保存性をもとに絞り込みを行った。既知の病的バリアントが抽出できていることを確認すると同時に、新たな候補バリアントを取得した(約200件)。これらの臨床的意義不明バリアント(VUS, Variant of Uncertain Significance)の中から個々の症例の遺伝形式や臨床症状に鑑み、優先順位をつけて検証実験を進めている。 初年度には合計7症例(6遺伝子)に新規のスプライシング異常を明らかにし、今年度はこれら7症例の検証実験を進めるとともに、さらに8症例(7遺伝子)すなわち通算15症例(13遺伝子)にあらたなスプライシング異常を同定することができた。また、今年度から開始した全血RNAシーケンスは、皮膚線維芽細胞未樹立の症例においてもRNA解析を行うための手段として非常に有意義であることが認められ、その活用範囲は染色体レベルの大きな欠失の同定からスプライシングエラーの同定まで非常に広範囲であった。 本研究において構築中のデータ解析手法により、スプライシング異常が原因となって発症する未診断ミトコンドリア病症例の遺伝子診断が効率的に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度より行ってきた既存NGSデータを用いた新規フィルタリング法の評価に追加して、今年度は初回64症例の全血RNAシーケンスのデータ取得が完了した。これにより患者由来細胞が未樹立でRNAにアクセスできなかった症例の解析が一気に進んだ。全血RNAシーケンスが非常に有効であることが証明できたので、今後も解析症例数を追加していく。
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今後の研究の推進方策 |
スプライシング異常を検出するのに最も有効で直接的な手段はRNAシーケンスである。①全血RNAあるいは皮膚線維芽細胞を用いたスプライシング異常の検出、②全ゲノムシーケンスによるディープイントロン領域のゲノムDNA配列取得、これら2つの解析を組み合わせることで従来は遺伝子診断を付することが困難であった難解症例(=ディープイントロン領域に病的バリアントを持つ症例)を解決していくことが可能である。 しかし、死亡症例の場合は前述①の解析において患者由来RNAが使用できないため、ゲノムDNAの配列情報のみでスプライシング異常を検証することが必要である。そこで、この問題を解決できるアッセイシステム(=ミニジーンアッセイ)の構築に着手した。モデルケースとして特定のインサート配列をアッセイベクターに組み込み、その配列がスプライシングに影響するか否かを確認することが出来たため、アッセイシステムの構築は完了したと言える。今後は遺伝子未診断の各症例において、前述①②の解析でディープイントロン領域の候補バリアントを取得して、随時、本アッセイシステムで検証していく。 最近、12kbのイントロン内のたった1塩基の置換でシュードエクソン(疑似エクソン)を産生する症例が見付かった。これはアンチセンスオリゴを用いた核酸医薬の絶好の標的であり、将来的な治療まで見据えた検証実験を行っていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度内の全血RNAシーケンスの追加解析を計画し、RNA抽出およびライブラリ調製を計画的に進めるよう努めていたものの、一部検体の到着が2月になってしまった。このためシーケンスデータ取得(外注)のデータ返却が年度内に間に合わず、年度をまたいで翌年4月納品となった。
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