本研究ではラット膵癌モデル動物を用いて、経時的な血清学的スクリーニングや網羅的な遺伝子解析によるKRAS阻害剤の治療予測マーカーの確立を目的とした。
in vitroの実験系として、膵癌細胞株と正常膵管上皮細胞株の培養上清からのエクソソームを抽出してプロテオーム解析を開始予定とした。既存の膵癌関連マーカーとして報告されているEps8、EphA2、GPC-1などのエクソソームを重点的に解析したが、両者において有意な差がみられる程の発現量の違いは認めらなかった。
in vivoの実験系として、野生型ラットへの膵臓特異的な膵癌関連遺伝子導入法により、ラット膵癌モデルを作出に成功した。このラット膵癌モデルを用いることで進行した状態で診断されることの多かった予後不良の膵癌の、初期段階での遺伝子発現の網羅的検証、組織学的変化、周囲組織との関連などが解析可能となると考えた。しかしラット膵癌モデルの作出には予想以上に難渋した。遺伝子導入法の手技が不安定であり、経過中に死亡する個体も多く認めた。膵癌を発生させた後も、長期間に生存できる個体が少なく、十分な血液や組織検体が得られず、膵癌発生に寄与する遺伝子発現の網羅的検証、組織学的変化、周囲組織との関連の解析、解明には至らず、癌の診断・治療のための血清マーカーの確立には更なる研究が必要と考えられた。 今後は、今回のin vitroとin vivoの実験系で得られた結果をもとに、膵癌の新規バイオマーカーの確立に期待したい。
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