研究課題
令和4年度は、本研究課題の1年目に該当するため、既に研究を開始していたirAE肝障害の肝生検組織、保存血清検体の収集を継続しながらデータベースの構築を行った。まずは2014年から2021年までの間に、当院にて免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用した患者702人におけるirAE肝障害発症を検討したところ、CTCAE Grade3以上で43人発症していた。教師なし機械学習の一つであるGaussian mixture modelを用いて患者群をクラスタリングし、irAE肝障害の発症リスクを検討すると、ベースラインの体温が高く, 高CRP, 高PLT, 低ALB、性別は女性であること、抗CTLA-4抗体使用時にirAE肝障害発症Riskが高いことが判明したため、論文化・発表を行った(J Gastroenterol Hepatol. 2022)。本研究の結果より、ICI使用患者における全身炎症反応の状態とその変化はirAE発症に強く関連することが判明したため、irAE肝障害患者における肝生検組織を用いてRNAseqによるRNAプロファイリングを行い、irAE発症に関与する遺伝子発現を検討した。その結果、irAE肝障害群で有意にCXCR2発現量が多いことが判明し、現在血清中におけるCXCR2値やsCD163値、各種炎症サイトカイン・ケモカインの変化に着目して解析を継続している。その他、irAE肝障害の特殊形でありステロイド抵抗性として知られるirAE硬化性胆管炎(irSC)の病態にも着目した。irSCと非irSCの臨床的特徴とその経過に関して比較検討を行い、irSCでは症状として腹痛が多く、CRP・NLR(好中球リンパ球比)などの炎症反応が高いことが明らかとなった(論文投稿準備中)。今後irSCと非irSCに分類し、血清マーカーや肝内遺伝子学変化に関しても検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
概ね研究実施予定通りに進んでいる。肝生検組織や保存血清は順調に収集できている。またRNAseq、血清マーカーの解析は現在行っているところであるが、令和5年度中に結果をまとめる予定である。
令和5年度は血清中サイトカイン・ケモカインの変化、またRNAseqを行う組織を増やし遺伝子解析にてメカニズムに関連すると予想される因子に関して、組織における免疫染色を行うことも検討する。元々irAE肝障害発症メカニズムとして仮説を立てた、マクロファージ極性と内皮障害の検討に関しても病理学的所見を含めて追加検討を行う。
本年度、必要物品購入に関して、607,866円の予算残高が発生してしまった。本来は免疫染色用の抗体、またRNAseqを購入する予定であったが、海外からの輸入に時間がかかり、本年度までに間に合わなかった。そのため本年の未使用額は、抗体費を中心に購入する予定である。
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J Gastroenterol Hepatol.
巻: 38 ページ: 251-258
10.1111/jgh.16038
J Dig Dis
巻: 23 ページ: 404-409
10.1111/1751-2980.13122