研究課題
肝癌は極めて予後不良な悪性腫瘍であり、ゲノム異常に基づく個別化医療の実践が喫緊の課題である。本研究では、前癌病変を中心に多段階発癌の各段階の組織を精細に採取し、全ゲノム解析にトランスクリプトーム・メチローム解析を加えたマルチオミックス分子系統樹解析を行うことで、発癌の極初期から多段階発癌の各過程に特徴的な遺伝子異常候補を抽出し、癌化・悪性化に関わるキードライバーを症例ごとに同定するとともに、ゲノム進化過程に基づいた分子標的治療の最適化につなげる基礎的知見を得ることを目的として研究を開始した。当院で肝癌に対して肝切除術を施行された症例の中で、切除範囲に前癌病変と考えられる小結節が含まれる症例を対象として、サンプリングを行った。画像上は造影早期相にて低吸収を示す、いわゆる乏血結節で、結節内より採取した組織からDNAを抽出し、Illumina社のNovaseq6000を使用して全ゲノムシークエンスを施行し、全塩基配列を決定し、リンパ球対照で体細胞変異を抽出した。一塩基置換に加え、増幅・欠失・転座・逆位などのゲノム構造異常を検出し、結節間で比較を行った。画像上類似した所見を呈する結節でも、様々な変異パターンを示しており、肝内に複数の結節を有する症例では、ゲノム異常の相違から肝内転移ないし多中心性発癌かの発癌パターンを推定することが可能であった。また、系統樹解析の結果、いわゆる肝内乏血性結節と言われる早期肝癌の段階で肝内転移をきたしていると推定される症例を認めた。また、国際がんゲノムコンソーシアムの肝癌症例における全ゲノムシーケンス解析結果を合わせて検討した結果、早期肝癌から進行癌に進展する過程で遺伝子変異シグネチャーが変化することが明らかとなった。
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