研究課題/領域番号 |
22K15966
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
渡邉 大輔 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (40595609)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クローン病 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患 (IBD) は、本邦において難病に指定される疾患である。IBD のうち、クローン病 (CD) (指定難病96) は、全消化管に生じうる非連続性の深い潰瘍が特徴で、本邦では、39,799 人 (平成25年度) の患者が存在する。CD に伴う炎症は激しく、炎症後の線維化に伴う腸管狭窄等が問題となる。近年、IBD に対する強力な治療薬が、立て続けに登場したが、腸管の線維化に対する効果は乏しく、同治療には、狭窄に対する明確な予後改善効果はない。
一方、近年、腸管線維芽細胞の機能調整に関わる因子が注目されている。例えば、腸管の線維芽細胞で発現するAXL蛋白 (Inflamm Bowel Dis 2020, 303-16) やカドヘリン11 (J Crohns Colitis 2020, 406-17) は、 腸管線維芽細胞の活性化の状態を変調すると報告されており、これらの因子は腸管線維化の治療標的として有望である。しかし、腸管の線維化のみを標的とした、実臨床で使用されている薬剤は、現在のところ存在しない。
そこで、申請者は、公のデータベースを再解析し、腸管線維化の病態機構に関わる可能性の高い候補 (ADAMDEC1) を特定した。本課題では、腸管線維化の病態調整に関わる可能性が高い因子であるADAMDEC1が、腸管線維化の進行に伴い、どのような動態変化をするのか、又、どのような生理学的機能を有するかの検討を行う。本課題の完遂によって、ADAMDEC1と線維化の関連に関する詳細な機構が明らかになり、本因子を治療標的とした新規治療開発が可能になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、【課題1】で、臨床検体を用いたクローン病線維化病変における ADAMDEC1 発現評価、【課題2】で、ヒト腸管筋線維芽細胞株 (CCD-18Co) を用いた細胞培養実験、【課題3】及び【課題4】で、腸管線維化モデルマウスを用いた検討、【課題5】で、ADAMDEC1 の発現調整に関わる因子の検索、を行うことを計画した。 まずは、【課題1】において、神戸大学食道胃腸外科学分野で、CD に伴う腸管狭窄等の腸管合併症のために手術を受けた患者の検体を用いて、ADAMDEC1 の発現、特に、腸管線維化芽細胞における発現を、病理学的手法を用いて評価した。結果、免疫蛍光染色法によるa-SMAとAMDADEC1の共染色による検討で、CDの腸管線維化部位における腸管線維芽細胞では、対照の憩室炎患者の腸管の線維芽細胞と比較して、腸管線維芽細胞では、ADAMDEC1の発現が上昇していることが確認された。 【課題2】では、ヒト腸管筋線維芽細胞株 (CCD-18Co)を用いた細胞培養実験を行った。腸管線維芽細胞株の培養実験において、腸管線維芽細胞を活性化するために、TGF-bによる刺激培養を行ったところ、a-SMAを含む複数の線維化関連マーカーが発現上昇することを定量PCR法で確認した。 【課題3】及び【課題4】においては、デキストラン硫酸ナトリウム (DSS)を用いた腸管線維化誘導実験を行い、腸管に線維化病変を誘導した。本実験において、線維化誘導後に、非誘導マウスと比較して、有意に腸管粘膜下への膠原繊維の沈着が増加することを、マッソンのトリクロム染色法で評価し、確認した。また、DSSによる腸管線維化誘導マウスでは、非誘導マウスと比較して、腸管線維化部位におけるADAMDEC1の発現が有意に上昇していることを定量PCR法で確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、【課題2】の細胞培養実験においては、RNA干渉による遺伝子サイレンシング実験を進めていく。本課題では、既に、他の対象因子に対して、腸管線維芽細胞に対する遺伝子サイレンシング実験を行い、同対象因子の遺伝子サイレンシングによって、腸管線維芽細胞の形態変化が誘導され、各線維化関連マーカーの発現低下が誘導された結果を得ている。さらに、本課題においては、腸管線維芽細胞の活性化後の遺伝子発現変化に関する網羅的解析の実施を予定している。 また、【課題3】及び【課題4】にいては、既に、複数のモデルを使用した腸管線維化誘導実験を行っており、DSS線維化誘導実験では、ADAMDEC1の発現変化が確認されている。今後は、これまでの実験で得られた検体の解析を順次進めていき、さらに、遺伝子改変マウスを用いた検討も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に施行した細胞実験及び動物実験において、事前の想定と比較して、実験器具・材料の購入に費用を要しなかったため、次年度使用額が生じた。 本課題では、課題の遂行過程において、線維芽細胞の機能変調に関わる可能性のある新たな標的因子が候補に挙がっており、同因子を標的とした細胞実験を進めていくための研究費として、本年度の残額を次年度の研究費に割り当てる予定とした。また、国内及び海外における成果発表については、次年度での発表への延期を予定している。
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