研究課題
本研究では中間代謝物を補酵素とするタンパク質修飾酵素に着目し、網羅的な探索を加えて胆道癌・膵癌の化学療法抵抗性とDNA損傷修復経路との関連を解析する。このことにより胆道癌・膵癌患者の化学療法抵抗性の分子機序を明らかにし、新規血液バイオマーカーとしての有用性の検証を行う。今年度は、予備実験の結果を受けて、クエン酸回路の中間代謝物2-オキソグルタル酸(2-OG)に着目した。同時に、2-OG依存性ジオキシゲナーゼ(2-OGDD)の一種、アスパラギン酸-β-ヒドロキシラーゼ(ASPH)についても調べた。全身化学療法を受けた肝内胆管癌(ICC)患者の治療直前の血清2-OG値を測定した。治療効果との関連を調べた結果、画像上進行(PD)と判定された患者は、安定(SD)および部分奏功(PR)と判定された患者と比べ、2-OG値が有意に高かった。胆管癌由来培養細胞を用いた実験では、DNA損傷マーカーγ-H2AX抗体を用いたウエスタンブロッティング(WB)により、2-OG添加またはASPHの過剰発現細胞では化学療法薬のDNA損傷作用が抑制されることを確認した。加えて、逆にASPHのノックダウンならびに特異的な低分子化合物によるASPHの阻害は、胆管癌細胞における化学療法の治療効果を増強することを見出した。加えて、WBによるDNA損傷シグナルの解析の結果、ASPHの過剰発現にてDNA損傷反応に関与する2つの主要な調節因子であるATMとATRの発現は変化しなかったが、ATRの活性化に寄与するいくつかの関連因子の発現に正の相関関係があることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、切除不能胆管癌患者で化学療法前1ヶ月以内に採取された血清の蓄積ならびに中間代謝物の測定を遂行できた。また、胆管培養細胞を用いた解析にて、DNA損傷マーカー(γ-H2AX抗体)ならびに関連タンパク質の抗体を用いて免疫染色を行うことで、血清中の代謝物2-OG値と、化学療法により誘導されたDNA損傷の関係の詳細について解析を進めることができた。現在、そこから誘導されるセネッセンス、アポトーシスを、検出キットを用いてそれぞれ評価している。
上記胆管癌症例に関連する研究につき、当初の予定通り、化学療法治療効果に関連する代謝物を数種類同定するための解析を続ける。また、現在症例を蓄積中である切除不能膵癌症例・膵癌術前化学療法症例についても解析を行う。胆管癌・膵癌においては現在癌組織により直接的に接している胆汁の蓄積も進んでおり、当初の計画の血清での解析に加え、胆汁の解析も続けていく予定である。
中間代謝物の網羅的な解析を行う予定であったが、検体数を増やして解析した方が1検体あたりの解析費用が安くなる状況となったことが判明したため、次年度以降にまとめて解析する計画に変更したため。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
Nucleic Acids Research
巻: 50 ページ: 9765~9779
10.1093/nar/gkac735