研究課題/領域番号 |
22K15986
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
屋嘉比 聖一 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (60909373)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 過敏性腸症候群(IBS) / 下痢 / ストレス / 副腎皮質刺激放出因子(CRF) / 嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR) / 網羅的遺伝子発現解析 / 血管作動性腸管ペプチド(VIP) |
研究実績の概要 |
過敏性腸症候群(IBS)における下痢発症の機序についてラットを用いて検証した。今回我々は、ラットにストレスをかける代わりに副腎皮質刺激放出因子(CRF)を腹腔内投与(IP)し、下痢を誘発することとした。初めに、ラットに下痢を起こす至適容量を確認して、既報と同様にCRF(10μg/kg)で良好な下痢の出現を認めた。また、既報と同様にCRF投与後60分で良好な排便を認めたため、CRF投与群とコントロール群各々から4匹づつ回腸末端を摘出し、網羅的遺伝子発現解析を行った。これらの結果として、水分泌に関与する項目について有意な差を認めた。我々はIBSの下痢発症のメカニズニムにおいて、CRFとVIPとの関連を報告しており、VIPと嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)の関連を示唆してしている報告もあるため、水分泌に関与するチャンネルの一つとしてCFTRに着目した。CFTR-inhなどを用いてCRFにより誘発される排便や下痢の発症が抑制できるか検証した。しかしながら、これらinhibitorをラットに用いた既報はあまりなく、投与のタイミングや方法や容量などについて検証する必要があり、既報を参考に様々な投与時間や投与容量を検証した。試薬の溶解のしづらさなどもあり濃度を含めた溶解方法などについても検証している。また、今回使用している試薬はDMSOで溶解したため、DMSO自体のラットへの影響を検証する必要があり、実際に種々の濃度や容量での検証を行い、ラットへの影響がないことを確認し、実際のCFTR-inh投与を行なった。これらの結果より一定の結果は得ているが、VIP-antagonistを用いた時ほどのクリアーの結果は得ておらず、更なる追加実験による検証やCFTR以外の水分子の関連なども含めて検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験で使用している試薬の在庫が国内になく、海外からの取り寄せとなっており、コロナ感染の流行や、ウクライナ侵攻などの影響により、試薬の入荷に時間を要する時期があったため、実験の開始などが遅れていたが、その後試薬は手に入るようになり、実験自体は進んでいる。しかしながら、実際に試薬を溶解する際に、既報で用いられた方法や添付文章通りの方法で溶解してもなかなか溶解された状態を維持するのが難しく、ラットに投与しても吸収されず、腹腔内に残ってしまっていることもあり、溶解濃度を変更したり、投与時間などを変更したりして検証することとなり、当初の予定より予想される範囲内ではあるが少し進行が遅れていると考えている。また、溶解の問題だけでなく、実際にどの程度の容量を投与すると効果があるのかの既報があまりないため、様々な濃度での実験をすることになっており、予想される範囲内ではあるが若干の遅れを生じていると考えている。当初予想していた程のクリアーな結果が出ていない部分もあり、現在でている結果の解析と並行して、他の関連因子との因果関係についても今後行なって行く予定であり、 今年度中には予定した部分までの結果を出すことは可能であると考えております。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究では、CFTR-inhの溶解や投与量や投与時間などで当初予想していた通りの結果がなかなか出ずに苦労しているが、異なる条件で何回か実験を行なっ たことにより、この問題点については解決されつつある。この条件の確認および修正などにより現在若干の遅れが生じているが、今後は更なる実験を追加して行う予定である。また、現在、出ている結果ではCFTRの関与が示唆される結果は出てはいるが、以前に我々が報告したVIPの関与と比較すると、CFTRがIBSの下痢の発症において果たしている役割は少ない可能性がある結果となっている。今回我々が行なった網羅的遺伝子発現解析では水分子の関与を示唆する結果が出ており、CFTR以外の水分分泌に関与する因子がより強く関与している可能性もあり、今後それらについても遺伝子発現以外の方法で更なる検討をしていく必要があると考えており、行なって行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時にコロナ感染の流行やウクライナ情勢などの影響で試薬をオーダーしてから納入されるまでに通常よりも時間が必要なことがあり、予定通りに実験計画が進ま なかったこと。また、実際に使用する試薬が既報通りに上手く溶解できず、実際にラットに投与しても吸収が上手くいかないことがあり、溶解方法の再検討が必要になったことがある。また、今回着目している試薬がラットに使用されている報告があまりなく、実際にどれぐらいの量が必要となるかの調整も必要であり、効果を確認しながら投与しており、必要容量が変化したりしており、一度に注文する ことが困難であった。また、試薬自体も高価であり、無駄を生じさせないためにも必要量を認識して注文する必要があり、実験を行う度に注文する必要があり、 使用額に差が生じてしまった。 今年度は前年度に行えなかった分の実験も含めて行う予定であり、必要に応じた容量の試薬の発注なども今後行ないながら、追加の実験を行い、自分たちの立てた仮説の検証を行っていく予定である。
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