本研究は、多発胃癌の発生危険因子として背景胃粘膜におけるマイクロRNA発生異常に注目し、そのバイオマーカーとしての有用性と、多発胃癌の発症機序解明を明らかにし、胃癌に対する新規治療法の開発につなげることが目的である。昨年度、早期胃癌内視鏡治療後に異時性多発癌を複数回発症した胃粘膜からの生検と、初発後長期にわたって発癌を認めなかった胃粘膜からの生検とを行い、組織保存液を用いてRNA分解を抑制した状態で検体を収集し、合計176検体からマイクロRNAを抽出した。さらに、胃粘膜に発癌への不可逆的なスイッチが入った状態を表すバイオマーカーの候補として、miR-223-3pを同定した。結果的に162検体のmiR-223-3pの発現の評価が可能であった。異時性多発癌患者から得た検体群と異時性多発癌を長期間にわたって認めなかった単発群の間で群間比較すると、異時性多発において、miR-223-3pの発現が低い傾向をとることがわかった。一方で、萎縮の程度、PPIの内服、ヘリコバクター・ピロリの感染状況など多様な交絡因子が存在するため、現在、統計学の専門家と解析を進めている。miR-223-3pは、胃発癌において促進的に働くマイクロRNAであることが複数報告されている。また、発癌に寄与するヘリコバクター・ピロリ菌が産生する重要な因子であるCagAがmiR-223-3pの発現異常に関与することが報告されている。今回、想定と反対の結果が出ていることから、さらなる詳細な検討を今後行っていく。
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